鈴鹿ケーブルテレビのスタッフが小林監督を食事に連れて行き、食中毒となって県大会の後半までベンチ入り出来なかったことは、旭が丘校内で問題になっていた。

 

甲子園が決まった後のインタビューは断っていた。

 

しかし生徒たちのたっての願い、正確に言えばどうしても桂木麻紀アナウンサーと会いたいという強い希望により、甲子園前のインタビューが実現した。

 

場所は旭が丘高校の宿泊ホテルの食堂で、ベンチ入りメンバー全員が参加する初めてのインタビューだ。

 

🎵チャラッチャッチャッチャー🎵

 

桂木麻紀 「皆さん、こんばんは。鈴鹿市のスボーツに関する情報をお届けする、鈴鹿元気スポーツの時間です。今日は出張インタビュー、旭が丘高校の宿舎からお送りします。」

 

パチパチパチ👏と、見に来ていたホテルのスタッフから拍手が起こる。

 

麻紀 「まずはエースでキャプテンの斉藤夏輝君からお話を伺います。斉藤君、今年のチームはどの様なチームでしょうか?」

 

斉藤 「はい、ベンチ入りメンバーはもちろん、メンバーの全員が一丸となって戦うチームです。複数ポジションを守れるものも多く、その日の調子で臨機応援に対応できる強みがあります。」

 

麻紀 「副キャプテンの藤本達矢君は全ての試合でサードコーチを務めていますね。試合で心掛けている事は何ですか?」

 

藤本 「迷ったら回すことです。ずっと3塁コーチを務めているので、みんなの走力は大体分かっています。相手の肩は事前に調べていて、直感で行けるかどうか分かるのですが、迷う時があるのでその時は回すことを心掛けています。」

 

麻紀 「力が拮抗すればするほどサードコーチの能力は大切になりますからね。では、打の柱で全国的にも注目されている大住虹太朗君、ズバリ今大会の目標はどうでしょうか?」

 

大住 「優勝と言いたいところですが、参加校は全て強敵ですので、まずは1戦必勝で戦っていきたいです。」

 

麻紀 「続いて捕手の小西凌也君、この夏は初めてもスタメンで見事な活躍でしたね。」

 

小西 「自分としては本当に夢のようで…甲子園では勘違いせず、地に足を付けて頑張ります。」

 

麻紀 「ファースト、そして外野も守る岩野航大君は常々監督がキーの打順と言っている2番を任されることが多いですね。」

 

岩野 「はい、今では大谷選手も2番を打つことが多くて、とても嬉しくやりがいがあります。」

 

麻紀 「岩野君も二刀流ですから、まさしく旭が丘の大谷選手ですね。同じくセカンドとサードの二刀流の桑原幹君、複数ポジションを守る難しさみたいなのは感じますか?」

 

桑原 「そうですねえ、以前は監督にショートやれって言われたこともありますんで。二つくらいなら全然大丈夫ですよ。」

 

麻紀 「そのショートを2年生ながら任されている阿部健太君、守備の要を任されているわけですが、やはり守備には自信がありますか?」

 

阿部 「はい!守備にも自信がありますが、自分の取柄は元気なので、大きな声を出してベンチを元気づけていきたいです!」

 

麻紀 「元気いっぱいの2年生、いいですね。次は主にサードを守るお二人にお聞きします。まずは笠原隼人君、走攻守すべてが揃っていますが、甲子園ではどの様な活躍をしたいですか?」

 

笠原 「そうですね、守備も一つの売りなので、走攻守全てに渡って勝利に貢献したいです。」

 

麻紀 「もう一人、サードに入る事が多い西脇岳斗君は、スタメンに出ると3番を任されることが多いですね。」

 

西脇 「はい、自分は守備は全く売りで無いんで(周囲から笑い声)、出る時は打撃で貢献したいです。」

 

麻紀 「続いて、センターを主に守っている児玉詩音君特集号でもセンターラインが堅いと評されていましたが、その辺りはいかがでしょうか。」

 

児玉 「はい、あれは僕ではなくて小西と阿部の事を言っているんだと思います(更なる笑い声)。自分は夏の大会は打撃で貢献できなかったので、甲子園では是非とも打って貢献したいです。」

 

麻紀 「さて、旭が丘高校は1番レフトが二人います。久保田輝人君甲斐凛君です。二人ともコンバート組ですが、まずは久保田君、ここまでの道のりを振り返っていかがですか?」

 

久保田 「本当に小林監督には感謝しています。多分同じタイプの選手はうちしかベンチ入りしていないと思います。自分を起用して、こうして甲子園まで連れて来てくれて、最高の高校生活でした。」

 

麻紀 「甲斐君はいかがですか?」

 

甲斐 「自分も一緒で、同じタイプの選手がベンチ入りしているのはあまり見ないので、小林監督や、そして高山先生には感謝しかないです。」

 

麻紀 「そうですよね。少なくとも特集号によれば、同じナンバーの選手は他にほとんど起用されていないみたいですね(春の都道府県大会で久保田輝人と同じ157番の起用は1校、甲斐凛と同じ113番の起用は1校でこれは当校ではない)。ではファーストコーチを務めている高野雄大君、高野君は阿部君同様2年生ですが、甲子園の雰囲気はどうですか?」

 

高野 「いや~、思ったよりも広いですね。こんな球場で野球が出来て幸せですし、自分たちの同級生にもその雰囲気をしっかり伝えたいですね。」

 

麻紀 「では、代打の切り札新井圭亮君、甲子園でも打席があると思いますが、どういうバッティングをしたいですか?」

 

新井 「えー、そのー、まだスタメンを諦めたわけではないので(周囲から拍手)、でも打席に入ったら、とにかく打って打って打ちまくりたいです。」

 

麻紀 「失礼しました、スタメンでも代打でも打ちまくってくださいね。では、ここで投手陣に行きましょう。斉藤君と並んでダブルエースを担っている池田建斗君。甲子園でも登板があると思いますが、どの様なピッチングがしたいですか?」

 

池田 「とにかく点を取られないような投球をしたいです。勝ちにつながるような、いいピッチングが出来ればッて思います。」

 

麻紀 「山谷大輝君は夏の大会も何度か先発を経験しましたが、甲子園に向けて意気込みを教えてください。」

 

山谷 「投げる機会があれば自分らしい投球をしたいと思います。」

 

麻紀 「最後に岩澤海斗君。甲子園ではどの様な試合がしたいですか?」

 

岩澤 「えー、投げる機会があれば自分らしい投球をしたいと思います。」

 

一緒やないか!という突っ込みが入り、大爆笑のうちにベンチ入りメンバー全員へのインタビューが終わった。

 

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生徒たちは憧れのお姉さん、桂木麻紀に会えて大満足だった。

 

ただ、大会初日の結果と確認し、甲子園の怖さというのも改めて感じていた。

 

第1試合は大逆転、第2試合は優勝候補の初戦敗退、第3試合は思わぬ大差。

 

甲子園には魔物がいるといいう現実を見せつけられた思いだ。

 

第1試合まであと3日。

 

ナインたちは改めて気合を入れなおした。

 

 

 

2024年8月3日、大阪フェスティバルホールで夏の甲子園大会の抽選会が行われた。

 

小林監督にとっては3回目、生徒たちや今年から部長になっている高山恭子にとっても初めても体験だ。

 

斉藤が周囲を見渡しながら言った。

 

「どこもかしこも強そうだなあ。」

 

すると藤本が

 

「でも普段からお世話になっている半田山さんや大和町さんもいるから、少し落ち着くよな。」

 

と言った。

 

「それに」

 

二人の話を聞いていた高山恭子が言葉を挟んだ。

 

「普段から交流のある小林義塾さんや、よく練習試合をする愛愛さんもいるわね。やっぱり知っている顔がいると心強いよね。」

 

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各チームのキャプテンが壇上に上がり、抽選が始まる。

 

場内に独特な緊張感が走った。

 

予備抽選の後、本抽選が始まる。

 

次々と対戦校が決まっていく。

 

優勝候補筆頭の森具高校は開幕初日の2回戦に出場だ。

 

長らく俺甲を引っ張ってきた森具高校はこの夏で引退を表明している。

 

果たして2回目の優勝で有終の美を飾ることが出来るのかが、この大会最大の見どころと言っていいだろう。

 

そして、旭が丘の抽選番となった。

 

斉藤がカードを引き、立会人に確認した後、観客席に向けて掲げた。

 

「旭が丘高校、13番Aです!」

 

その瞬間、「おお~」という声が上がった。

 

 

 

山形vs三重は今年の選抜決勝戦と同じ組み合わせだ。

 

選抜優勝校と準優勝校とを破ったチーム同士の対戦となり、1回戦の中でも話題性抜群のカードとなった。

 

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対戦相手が決まり、生徒たちのモチベーションは上がる一方だ。

 

そんな中、監督は胸の中にしまっていた想いをいつみんなの前で表明するか思いあぐねていた。

 

いや、今は考えないでおこう。

 

3年生たちにとってこれが最後の大会だ。

 

全力を挙げて、悔いのないように生徒たちをサポートしよう。

 

 

 

5回戦にしてすでに決勝戦の様相を呈した対鶴ケ丘戦。

 

平日の開催にも関わらず、観客席には大勢の人が訪れていた。

 

先発の斉藤夏輝はブルペンで入念な投球練習を行っていた。

 

夏輝の心は落ち着かなかった。

 

大事な決戦を前にした高ぶりが9割だが、やはりどうしても林礼子が来ていないか気になった。

 

投球練習中も観客席をチラチラ見てしまう。

 

ダメだ、流石に試合に全集中をしなくてはいけない。

 

投球練習を終え、グランド整備の間に観客席へあいさつに行った時に、これを最後に観客席を見るのは最後にしようと思った。

 

夏輝自身の掛け声でナインが深々と礼をする。

 

頭を上げて応援席を見回すと、いた。

 

スタンドのの一番奥の端に、申し訳なさそうにちょこんと座っている。

 

よっしゃ!夏輝は心の中でガッツポーズをした。

 

絶対にいい所を見せてやるんだ。

 

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1回表の旭が丘の攻撃は三者凡退に終わった。

 

いよいよ、だ。

 

マウンドに上がり、2球、3球と投球練習をするたびに夏輝の心は昂ってきた。

 

絶対に、絶対に抑えてやるぞ。

 

礼子にいい投球を見せて、そして甲子園へ行くんだ。

 

俺の夏物語が、ここから始まるぞ。

 

この1球から・・・

 

カーン!

 

あっ、という間もなかった。

 

打球はレフトスタンドへ一直線。

 

先頭打者の初球を捉えられホームランを食らってしまった。

 

呆然とする夏輝。

 

捕手の小西がマウンドに来たが、その言葉は全く耳に入ってこなかった。

 

自分を取り戻す間もないまま、2番打者を四球で出す。

 

「ああ、どうしよう。落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ。」

 

言葉とは裏腹に、言葉は冷静さを取り戻していなかった。

 

夏輝はランナーを目で牽制することもせずに、3番打者への初球を投げた。

 

「走った!」

 

周囲の声にハッとした夏輝は、思わず頭を下げた。

 

その上を小西の矢のような送球が通過する。

 

「アウト!!」

 

二塁審判のコールにハッと我に返った。

 

「ワンアウト、ワンアウト。夏輝、ここからだ。」

 

周囲の声も聞こえるようになった。

 

よし、まずはワンアウト。ランナーもいなくなった。

 

夏輝は周囲を見渡す。

 

スコアボードには鶴ケ丘に1点が入っているが、アウトカウントも一つ入っている。

 

その前には外野陣が、更に自分の周囲にはいつも頼りになる内野陣がいる。

 

そして前を向くと、努力でこの夏のスタメンを掴んだ小西がいる。

 

夏輝はごく当たり前の事を思い出した。

 

野球は一人で行うものではないという事を。

 

その後も、連打でピンチを迎えたが、今度はマウンドまで来た小西の言葉も耳に入り、ピンチを切り抜けた。

 

 

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その後も夏輝は鶴ケ丘の攻撃を受けたが、小西をはじめとした堅い守りで多くのピンチを切り抜けた。

 

6回で4失点。

 

春の準優勝校、強打の鶴ケ丘相手に上々の出来である。

 

7回裏に池田にマウンドを譲り、斉藤はベンチから声援を送る事となった。

 

マウンドを降りてもキャプテンとしての働きが残っている。

 

夏輝はベンチから声を張り上げ、戻ってくる選手たちを鼓舞し、勝利へ向けて全力を傾けた。

 

9回表、監督代理の高山恭子の言葉が終わった後、夏輝が檄を飛ばした。

 

「さあ、まだまだ俺たちの夏は終わらないぞ、旭高ファイト!」

 

ベンチの最前列で味方打線に対し声援を送り続ける夏輝。

 

最後の攻撃もツーアウトランナー無しとなる。

 

あと1アウトで夏が終わる。

 

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「お願い、まだ終わらせないで…」

 

林礼子は応援席の片隅で必死に祈っていた。

 

エースとしてマウンドに立つ夏輝もカッコよかった。

 

強力打線相手に一歩も引かず、打たれながらも必死に耐える姿には勇気をもらった。

 

しかし、マウンドから降りた後の夏輝の姿に、礼子はもっと感動していた。

 

チームのために、仲間のために必死になって声を出し続ける夏輝。

 

自分にスポットが当たらなくても、仲間を応援する姿には高貴なものまで感じた。

 

最終回も2アウトになり、もう後がなくなった旭が丘高校だったが、夏輝をはじめベンチも選手も応援団も誰一人諦めていない。

 

人を応援する力をヒシヒシと感じた。

 

だから、まだ終わらないで…

 

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ツーアウトランナー無しで、バッターは7番阿部。

 

「よし、昨日もここからだったぞ!」

 

夏輝が手を叩きながら全員に言い聞かせるように叫んだ。

 

前日の川越戦、6回ツーアウトランナー無し、バッター阿部から怒涛の攻撃で5得点を奪っている。

 

 

諦めたら終わりだし、諦めない限り何が起こるか分からない。

 

夏輝の中には、ここから逆転できるような確信めいたものがあった。

 

それは妄想みたいなものだったが、根拠はある。

 

俺たちは今までずっと苦しい思いをしてきたのだから、最後くらいは野球の神様が微笑んでくれるはずだ。

 

**********

 

阿部がセンター前ヒットで繋いだ時、礼子は大きな歓声を上げた。

 

自分の前や横にいる、おそらく生徒たちの家族だろう人たちと一緒に手をたたき合って喜んだ。

 

こんなに大声を出したのは何年ぶりだろう。

 

見ず知らずの人たちと共に喜べるなんて、今まであったかどうかも思い出せない。

 

礼子の目から涙があふれてきた。

 

横にいたおばさんが、「まだだよ、まだこれからだよ。」と励ますように礼子に声を掛けた。

 

うんと頷いた礼子は、打席の小西に対して必死に声援を送った。

 

**********

 

小西の放った打球が、レフトの頭上をおそった。

 

映画のワンシーンのように、そこだけスローモーションになったようだった。

 

「いけ~!」

 

ベンチの夏輝が、応援席の礼子が力の限り叫ぶ。

 

その声援に乗せられるかのように、ボールはレフトスタンドに吸い込まれた。

 

土壇場での逆転2ラン。

 

ベンチも応援席も、喜びが爆発した。

 

礼子の隣では、今度はおばさんも泣いていた。

 

周囲の人と抱き合って喜ぶ。

 

何て素晴らしい事なのだろう!

 

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9回裏、ツーアウト1塁3塁。

 

守備の時は応援の声を出すことが出来ない。

 

礼子は必死になって祈った。

 

ストライクが入ると手を叩いてマウンドいる池田を励ます。

 

そして、最後の打球がショートに転がり、一塁アウトになった時、再び歓喜の渦がスタンドに溢れた。

 

隣のおばさんはもう知らない人ではない。

 

握手をして、お互いに勝利を祝福し合った。

 

試合終了後に流れる校歌を口ずさむ周囲の人たちにチョッピリ羨ましさを覚えた礼子だったが、「礼!」という夏輝の声に胸の高まりを覚えた。

 

あいさつのために応援席の前に走ってくる旭が丘のナイン。

 

その先頭に夏輝の姿があった。

 

「礼!」と言って垂れた頭を上げた時、ふと夏輝と目が合った気がした。

 

思わず手を振る礼子。

 

すると、夏輝が去り際にスッと左手の拳を上げた。

 

気付いてくれたんだ。

 

**********

 

ベンチで荷物の片づけをしている夏輝に、高山恭子がそっと近づいてきて言った。

 

「彼女来てたわね。」

 

一瞬ドキッとした夏輝だったが、そう言えば礼子と手紙のやり取りをし始めたきっかけが恭子であったことを思い出した。

 

 

夏輝は照れたように、「いや、彼女だ何て、まだ全然そんな事は…」と言った。

 

「何言ってるのよ、最後の挨拶の時に手を上げて応えていたくせに。」

 

あっけにとられる夏輝を後に去って行く恭子。

 

何て観察力の鋭い人なのだろうと夏輝は思ったが、すぐにずっと試合を見てくれた礼子の事を考えた。

 

今日の試合、どうだったか直接聞いてみたい。

 

直接会って話がしたいという思いが夏輝の中で強くなっていった。

知恵蔵学園 0-15 旭が丘

 

 

 

今日もリアルの視点から。

 

決勝のあった時間帯、リアル監督はバンテリンドームにいた。

 

中日‐阪神を観戦していたのだ。

 

常葉大学付属静岡さん、春日井東さん、立野ヶ原さん、菜摘さん、そして三重自由学園さんとのオフ会である。

 

タイガースファンの三重自由学園さんと二人で三塁側で応援していた。

 

最近の両チームでは信じられないほどの打撃戦。

 

二転三転の非常に面白い試合で、ちょうど決勝が終わった時は阪神が再逆転をした時だった。

 

結局タイガースは負けてしまったのだが、最後はマルティネスをあと一歩と追い詰める粘りを見せた。

 

今年の旭が丘は、終わってみれば有終の美を飾ったが、途中は本当に苦労した。

 

タイガースも今は本当に苦労しているが、最後は勝てるように試行錯誤しながら上位にくらいついて行ってほしい。

下馬評では圧倒的有利。

 

三重県のランキング1位の旭が丘に対し、100位以下の知恵蔵学園であるから、それは当たり前だろう。

 

しかし、それによる気の緩みが最大の懸念だ。

 

大会の中休みであり、練習メニューも軽めだったためか、何となく生徒たちの気が抜けているように見えた。

 

夜のミーティングで小林監督は静かに話し始めた。

 

「もし、明日の試合は楽勝だと少しでも考えている者がいたら、手を上げてくれ。もしいたら…」

 

生徒たちの間にピリッとした空気が走る。

 

「もしいたら、今からスタメンから外すから。」

 

もちろん手を上げる者はいない。

 

「お前たちは今までのどの学年よりも負けてきたチームだ。格下と思われたチームに、これまで何度も負けてきた。その経験がお前たちを強くしてきたと、俺は信じる。弱者ゆえの強さをお前たちは持っていると信じている。明日の試合も、とにかく全力で立ち向かうのだ。いいな。」

 

「はい!」

 

運命の1戦が、いよいよ始まる。