飛行機に乗る楽しみは、きれいなキャビンアテンダントを間近に見られること、っていう俺ですが、今回の沖縄行きでは全然その楽しみを味わえませんでした。乗った飛行機に美人がいなかったわけじゃないですよ。それどころか、降りるときに「ああ、こんなきれいな子がたくさんいたのか」なんて思ったくらい。でも乗っている間はそこに目がいかなかった。というのも、この行き帰り、一冊の本に目を奪われっぱなしだったんです。
それがこの柳澤健著「完本 1976年のアントニオ猪木」。俺はかって別冊漫画ゴラク誌に「オレは風神」なんていうプロレス漫画を描き、終了後は同誌でプロレスコラムを書いたくらいのプロレスファン……というか、猪木プロレスのファンでしたから。猪木のプロレスを観に旧蔵前国技館、田園コロシアム、両国国技館、後楽園ホール、東京ドーム……どれだけ行ったか。で、この本ですよ。いやぁ痺れましたねぇ。
1976年に猪木は通常の結末の決まった、いわゆるケツ決め試合とは異なる3つの試合と、ひとつのケツ決め異種格闘技戦(対ルスカ)をした。その詳細を追った本なんですが。猪木側の情報でいうと、熱心なファンであれば、そう意外な事実はありません。ただ相手側の追い方がすごいです。特にルスカとその永遠のライバル、ヘーシンクとの絡みはこの本の白眉です。共にオランダの柔道金メダリストでありながら、国民的ヒーローになったヘーシンクと、売春街の用心棒にしかなれなかったルスカ……このすごい人間ドラマには目が離せない迫力があります。それ以外のモハメドアリ、パクソンナン、アクラムペールワン周辺への取材も素晴らしい出来で、従来のプロレスマスコミが伝えていた物とは、正に「物が違う」感じでした。
プロレスに関する本では村松友視「私プロレスの味方です」、ミスター高橋「流血の魔術」に並ぶエポックとなる名著といっていいでしょう。村松氏が作家の目から見たプロレス論で高橋氏が現場からの内幕物。この柳澤氏のはプロレスルポルタージュとしてひとつの頂点ではないでしょうか。レスラー猪木への高い評価と、人間猪木への辛い評価がきちんと書かれているのもいいですね。
いい物読ませていただきました。