随分と前のことになるけれど、私はショートストーリーのような小説を書くのが好きだった。
テーマはその時々で全然違ったけれど、描きたいのは脳裏に浮かんだ鮮やかな場面
登場人物も全く違う、老若男女、動物だったりもした
いろいろな媒体に書き落とした物語は、そのあとその媒体がなくなってしまったり、アカウントにログインできなくなってしまったり
今となっては、もう自分も読み返すことができない。
それでもふと、その鮮やかな一場面を、思い出すことがある。
もうなくなってしまった、レトロな喫茶店のように、もう一度訪れることもないまま、ひっそりとインターネットのどこかに漂う物語を
いつかまた、読んでみたい
その頃にはきっと、その物語を生み出した背景すら忘れてしまい、新しい新鮮な小説を読むみたいに、私は読むんだろう
遠い昔に見たことのある、知らない街並みのように、ぼんやりとした既視感を覚えるのだろう
あの日、喫茶店で、冷めかけたコーヒーに涙をぽとりと落とした主人公は、重い喫茶店の古びたドアを開けて、恋人に追いつくことができたのだろうか。
驚いて振り返った恋人に駆け寄って腕をくんで、「なんでもないよ。もうちょっと一緒にいたくなっただけ」そう言って微笑んだのだろうか?
あれから何年も経つ間に、今はもう結婚して出産して、慌ただしい毎日を過ごしているのかもしれない。
そのそばで穏やかに笑っている男の人
よかったね
幸多き日々を過ごしていてくれたなら、私も嬉しいな、なんて思う