出逢いとバスと鈍感男のお話し 後編 | 朝は来る 詩の章 by asawakuru

朝は来る 詩の章 by asawakuru

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このバスで帰るんですか


うん これが最後のバスだから


それに今日卒検合格したから


ここに来るのも最後なんだ


今日で卒業



そうなんですね


気のせいか瞳が揺らいだように見えた



もう友達も帰ったし遅いけど大丈夫?


大丈夫です 親が迎えに来るので


笑顔だけど なんかぎこちない



あと5分か もう行かなきゃ



そしてボクは立ち上がった


その子は座ったまま


言葉を発することなくボクを見上げた


手をグッと握ってるように見えた



付き合ってくれてありがとう


気をつけて帰ってよ



その子は はいってうなずいて


小さくバイバイをしてくれた


バイバイと言って背を向けた



待合室から玄関を出たら真っ暗だった


冬を告げる冷たい小雨が音もなく


静かに降ってた



玄関を出て左手を少し歩いたところに


寒そうなバスがポツンと止まってた


バスに乗り込んだら


一人女性が車内の左手に座ってた


反対側の学校側の右側に座った



学校から漏れる光で辺りを照らしてたけど


小雨のせいでおぼろげだった


やっと終わったと感慨にふけった



ぼんやり学校を見ながら


さっきの子はいい子だったな


帰り大丈夫だろうか


外を見ながらぼんやり考えてた



運転手が乗って来てエンジンをかけて


そして静かに進み出した


バスが玄関の手前に差し掛かった時



二人の人影が見えた


さっき話をした子と


先に帰ったはずのもう一人の子が


バスを見上げてた



あの子は胸の前で手を握って


もう一人があの子の肩に手を回してた


外からはバスの中は見えないのか


目を凝らしているようだったけど


ボクには二人の姿がはっきり見えた



バスは真っ暗な小雨の中あっという間に


玄関前を通り過ぎて行く



時間としては一瞬だったけど


ボクにはスローモーションのように


二人の姿を捉えて離さなかった


あの子の表情が見えたような気がした



通り過ぎても尚ガラスを凝視して


固まって動けなかった



どんな話でも楽しそうに笑う表情


バスの話をした時の表情


もうすぐ行くと言った時の表情


さよならと言った時の表情




全て分かってた


感じていた


気づいてたじゃないか



呆然と目を見開いたまま


いつもの停留所で降りた



いつもこうだ


分かってるのにわからないように


誤魔化す勇気のない自分


漆黒の空から今年初めての雪が舞ってる




それからは


女性が目をじっと見て話してくる時


目を見て話すのが苦痛になった


好意を向けられると距離を取るようになった


周りから責められようとも


鈍感な自分を演じ続けた


そしてバスに乗るたび君を探した



時間が経っても尚後悔は消えず


遠い昔から心に残るトゲになった


小さな物語。







最後までお付き合いありがとうございました。

鈍感男の昔話でした。

感想など頂けると嬉しいです。(^^)