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プロ野球に欠かせない存在でありながら、メディアに取り上げられることはほとんどない。いまだに謎のベールに包まれている「審判」の世界。「過酷な仕事」という印象も強いが、実態はどうなのか。長年、プロ野球界を支えてきた元審判の2人に話を聞いた。

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 投手が繰り出す150キロを超えるストレートと多彩な変化球を、捕手の真後ろから瞬時の判断で見極める。走者が本塁へ突入……セーフか、それともアウトか。紙一重のプレーのジャッジは、まばたきさえ許されない。称賛されることは少なく、どちらかといえば批判のほうが多い。そんな状況で、審判は、日々プロ野球界を支えている。

 だが、プロ野球界には、いったい何人の審判がいるのか。おそらく、こんな初歩的な問いにも答えられる人はかなり少ないだろう。セ・リーグ審判として34年、NPB初代審判長も務めた井野修さん(70)は、審判の組織についてこう語る。

「NPB(日本野球機構)には、現在62人の審判が所属しています」

 内訳は、現役の審判が56人、現役の審判を育成・査定するスーパーバイザーが5人、全てを統括する審判長が1人。基本、この56人で、全試合の審判業務を行うという。

「3月下旬から10月まで続くシーズン中、プロ野球は各球団143試合が行われます。球審1人、塁審3人、控え審判1人の計5人の審判が、各試合では配置されています。ちなみに、1人の審判が年間で担当するのはおよそ100試合。経験やスキルの差により、試合数には違いはありますが、オールスターやクライマックスシリーズ、日本シリーズなども担当するベテラン審判であれば110試合程度です」

 休日は、月3~5日。

「セ・リーグ、パ・リーグを合わせて1日6試合開催が基本なので、審判を7つのチームに分け、常に1チームは休めるような仕組みで人員をまわしています」

 シーズンが終了すればオフというわけではなく、10月から開催される「みやざきフェニックス・リーグ」への参加や定期的な勉強会、会議もあり、12月中旬ごろまでは多忙な日々が続く。翌年2月からはプロ野球のキャンプがスタートし、キャンプには審判も参加する。12月中旬から翌年1月下旬までのおよそ1カ月半が審判にとっての貴重な完全オフになるという。キャンプ中、審判は何をしているのか。

「午前中はランニングやダッシュなどの筋力トレーニングを2時間ほど行います。午後からは紅白戦に参加したり、ブルペンに入らせてもらい、投手が投げるボールを捕手の後ろから見たりして、ボールへの『目慣らし』をします」

 直前まではオフだったため、「審判も感覚が鈍っている」という。

「キャンプ中に何千球ものボールを見て、少しずつ感覚を取り戻していきます」

 この期間に監督やコーチ、選手とコミュニケーションをとることも重要だという。

「馴れ合いはよくありませんが、ある程度の良好な人間関係を形成することは、良い仕事をするためには必要です。立場は違いますが、みんなプロ野球界の仲間ですから」(以上、井野さん)

■月17万円 生活できず副業や親の支援を受けるケースも

 NPBの審判になるには、2013年に開校された「NPBアンパイア・スクール」を受講するのが基本だ。開催は年に1度で、毎年150人ほどの応募者の中から、1次選考を通過した60人前後が受講できる。

 パ・リーグ審判として29年、通算1451試合に出場した山崎夏生さん(69)は「NPBアンパイア・スクール」についてこう語る。

「スクールでは、アメリカの審判学校が5週間かけて行うメニューをおよそ1週間で行うため、内容はかなりハードです。朝9時から、実戦に即したプレーへの対応、投球判定などを学び、夜は座学で講話やルールの勉強。テストも毎日実施されます。過酷なため、途中でリタイアするケースもめずらしくありません」

 受講者はNPBの審判を目指す人がほとんどだが、中学・高校の野球部の顧問やアマチュア野球で指導的立場にある人、少数だが女性の参加もあるという。 

 スクールを終了し、成績優秀と認められた受講者のみが「研修審判」として採用される。ここが審判としてのスタートラインだが、採用人数は毎年わずか3~6人という狭き門だ。契約期間は最長で2年。「研修審判」の待遇はシビアだ。報酬は、月17万円の6カ月契約(プロ野球のシーズン中のみの契約)で、「年俸102万円」。研修審判の収入だけでは生活が厳しいため、副業をしたり、親の支援を受けたりするケースが多い。かつては引退したプロ野球選手がセカンドキャリアとして審判を志すケースも多かったが、待遇のせいか、近年応募する人はほとんどいない。

「研修審判」になると、独立リーグである「四国アイランドリーグplus」や「BCリーグ」に派遣され、球審、塁審としての動きの基礎を徹底的にたたき込まれる。「みやざきフェニックス・リーグ」では実際に昇格試験が実施され、合格すれば「研修審判」から「育成審判」になれる。

「育成審判」になれば、2軍ではあるがNPBの試合にも出場が可能だ。ジャッジのレベルは一気に高くなるが、年俸も400万円弱にまでアップし、「昇給」もある。ここまできて、「審判の仕事に集中できる環境」がようやく整うという。

「育成審判」の契約期間は最長3年だが、研修審判の時と同じく昇格試験に合格すれば、ついに念願の「本契約」となる。ただ「本契約」になったとしても、1軍の試合に出場するには、まだ長い道のりがある。

■一人前になるまで「最低10年」

「プロ野球選手なら1年目でレギュラーになることもありますが、審判は無理です。審判に最も大切なのは『経験』。いろいろな修羅場を経験し、あらゆるプレーに遭遇し、ジャッジの引き出しを持たないといけません」(山崎さん)

 1軍の試合に出場できるようになっても、最初は月2、3試合ほど。残りの日程は2軍で経験を積む。1軍の試合に定着するまでには、研修・育成の期間を合わせると「最低10年」はかかるという。

(AERA dot.編集部・岡本直也)

※【後編】<プロ野球の審判「ミスジャッジ」でバッシング、重圧で吐き気も…過酷さを超える仕事の「魅力」とは>へ続く