そのまま水を滴らせるシャツをきつく結んで縛り上げれば、自力では到底抜くことのできない手枷になる。

「お前、こういう趣味もあんの?」

さすがに少し怒らせたかとも思ったけれど、そんなことはどうでもいい、

「イイ眺め。たまんないね」
「……でた、ヘンタイ」
「そっちだって悦んじゃってんじゃないの」

静かに揺れる水面、その下で深く抉るように腰を煽れば反応する体が艶めかしく揺れて、自由を奪われた両手はすぐに縋るように首に纏わりついてくる。

「あ、いっ、……そこ、いい、……」
「翔くん、キス、しよ」

肩に乗せられていた頭が素直に持ち上がり、ごく至近距離で見つめ合う、その途端結合が更にキツく締め付けられる、

「……人の顔見て感じてんだ?」
「ちが、……ん、あ、アッ、」

最奥まで挿し入るように何度も揺らせば脳を蕩かす甘い声が唇から溢れ、湯の中で揺れる体が快感を増幅させる、堪えようとする唇に噛むように肩口を咥えられて、

「しょうくん、」

肩じゃなくて、こっち、とその唇を自分のそれに誘導する指先が、熱い舌に舐めとられる、相手の視線の中で濡れた指先を咥えるようにして舐め返してみせると、そのまま柔らかな唇に塞がれた。
逃げないように丸い後頭部を強く押さえつけたまま吐息まで飲み込むような深い接吻を繰り返す、止まらない煽る腰、耐えきれず合わせた口唇の隙間から漏れる淫らな声もどっちのものかももうわからない、全身が擦れ合う熱の強烈な快感に犯されていく。

「……あっ、じゅ、ん……そこ……っ」

不意に透明な糸を引いて離れた唇が切なく喘ぐ。

「……はっ、あ、気持ち、い、」
「知ってる、ここ弱いよね」
「や、待って、俺、あっ、また、おれだけ、」
「……っ、いいよ、俺でイくとこ、見せて」

今この時だけは、あんたの全ては俺のものだと思えるから。
俺に溶けてしまうあなたの全てを見せて。

従順に快感の波を拾い続ける体、その感じるところを一気に攻め立てる。


「や、あ、イく、あぁっ──」


乱暴に打ち付ける腰の上で痙攣するように大きく震え、腹の間に熱い滑りが溶けていく。
未だ震え続ける腰、心許なげにしがみ付いてくる白い肢体、構わずに揺らし続けながら、まだつけてない、と分かっていて言ってみれば、喉から搾り出すような吐息の合間に、このまま、中に出して、と煽られて、限界を感じた。

本当に、

腕の中で溶けてしまえばいいのに。


愛しい体の奥深くに欲望のままに熱い精を放つと、耳元で聞こえていた荒い息遣いが満足げなため息に変わり、余波に震えるその体も脱力したようにもたれてきた。

少しして、ゆっくりと頭を撫でてくる指の感覚と、髪に落とされる優しい口づけ。性急に訪れる倦怠感の中、彼はいつも甘く触れてくる。まるで手のかかる子供をあやすみたいに。

その瞬間、なぜだかいつもどうしようもなく泣きたくなった。






「翔くんは雪みたいだね」

ほとんど眠りに落ちかけている相手に、独り言のように言う。

「このまえは悪魔だか鬼だか言ってなかったっけ?」

返事が返ってきたことが思いのほか嬉しくて、仄暗く照らされた虚空を見つめていた視線を隣に向ける、目を閉じたまま小さく笑う愛しい人。

「……いや、今日思ったけど、翔くんは雪だね。どうぞ触ってくださいみたいな顔して、なのに実際触れると冷たくてさ……冷た過ぎて、なんかもう怪我したみたいにあちこち痛いよ、俺」

「はは……それは、あれ、あのー……凍傷か。んー……あんなに熱くなっといて、それはねえだろ……」
「まあね、どっちかって言ったら火傷だよね」

「……いいんじゃねえの、どっちでも……つーか痛えのは俺の方だってのーなんてな、ふふ」

「……眠い?」
「んー……、ごめんな。でも、お前の声、気持ちいーから……ずっとしゃべってて」

おやすみ、と少し痛々しいくらいに掠れた声で小さく告げられ、ただ優しいだけの時間は終わる。
あっけなく眠ってしまった愛しい人と、たぶん朝まで眠れない自分。

行為の最中何度も好きだと言いかけてその度に飲み込んだ、そんな言葉、この人には届かない。





離れて見てるとフワフワして温かそうに見えるの。
誰にでも平等に降り注ぐ雪みたいに優しく見えるのに、
近づくと、びっくりするくらい冷たい。
あんまり近づき過ぎてずっと触れてると冷たい熱で火傷する。

その心を知りたくて、必死に溶かしてみようとすれば、きっと消えていなくなっちゃうんでしょ。

この雪が止むころにはあなたもここから去って行くんだね。



焼けるような、胸の痛みだけを残して。










fin.