「まさかだけど、続きは風呂のあとでとか言わねえよな?」

脱力した体を床に座らせ、風呂に入るためにシャツを脱がしてやろうとボタンに触れたその手をつかまれた。視線を合わせるより先に唇を塞がれ、ねっとりと甘い舌が絡みつく。

「お前のひん曲がった性癖のせいでちょうど尻がぐしょぐしょなんだけど」
「……なに性癖って」
「着たまますんの、好きだろ。ヘンタイ」

綺麗な瞳が薄情に揺らめきながら笑う、憎らしいほど愛しい存在。

「……へえ、そういうこと言うんだ」

「ほんとのことだろ、すかした顔して、とんでもねえヘンタイなの」

焦がれる想いは憎しみに似た感情と隣り合わせで、ふとしたきっかけであっちとこっちを行き来する。

どうしてあなたはそんなに冷たいの。
触れた体は熱いのに、微笑む笑顔は甘いのに、その心は触れることが出来ないくらいに残酷なほど冷たい。
そうだ、この人は悪魔じゃない、一見白くて柔らかな、もっとずっと優しい顔をした、“アレ”に似てる。
愛か怒りかわからない感情のまま、乱暴に下着だけを剥ぎ取るように脱がせてバスルームに押し込めば、

「ほらあ、大正解じゃん、俺」

可笑しそうに笑いながらそのまま躊躇なくコックを捻る白い体、普段身にまとう良識という鎧を脱ぎ捨てたこの人は、いつもその途端に淫らなくらいの色気を纏って見えた。

こっちを振り返ったその頭上にシャワーが降り注ぎ、ふわふわの柔らかな髪を、肩を滑り落ちかけたままのシャツを、濡らしていく。

「……色っぽいな、松本」

煽情的な微笑を浮かべる相手、その熱っぽい視線が全身に向けられているのを感じた。

「ハ、俺?……冗談でしょ。翔くんのほうがよっぽどだよ」
「いーや、すげえそそる顔してる。な、はやく、こっちこいよ」

自分が今どんな顔をしてるのかは知らない、ただ、彼の目にそう映っていると言う事実に堪らなく興奮した。

いいよ、あんたの期待に応えてあげる。

スウェットを脱ぎ捨て、バスルームのドアを後ろ手に閉めた。






立ち込める熱気の中、静かに反響する淫らな水音と息遣い、ぴたりと肌に張りつく白いシャツ、透けて見えるその向こう側の熱。
今し方本人が出したものが流れ落ちないうちに強引にうしろに塗り込めば、呼吸を詰まらせる気配に一瞬彼の負担が気になった。それでも、はやく、と甘く急かす声一つでそんな理性は吹き飛び、衝動のままに窮屈に絡み付く内側へ猛った熱を埋めていく。

「はっ、あ、……もっと、奥……」

「なに、ちゃんと、言って」

彼の体は知り尽くしている、感じるところを徹底的に攻めて、快楽に溺れる姿が見たい。
わざと浅い律動を繰り返しながら、壁に手をつく背中に舌を這わせる。

「言わないとずっとこのままだよ」
「無理言うな、んッ、……、も、……やっぱ抜いて、マジで……ッ!」

本当は一気に貫いてしまいたい衝動に駆りたてられながら必死に抑えた、余裕なんて、ない。

「抜いて良いの?なんで?」
「んあっ……おまえ、あ、アッ、ヤダ、っ……」

不意打ちで強く腰を打ち付ける、目の前の背中が大きく仰け反り、卑猥な音がひときわ大きくバスルームに響く。

「か、お、見たい、……じゅん、んっ、あ、」
「なにそれ……」

暴走しそうな欲望を必死に耐え、再びゆるゆると腰を揺らす程度に堪えれば、誘うように締め付けてくる、自身の緩慢な動きのせいで相手の体の反応を顕著に感じて、上がりかけた息は落ち着くどころか喘ぐように変わっていく。生殺しだ、こんなの。
肩越しに少し振り向いて見えた顔。濡れた唇の端をつたう唾液、上気した頬、合わない視線の中で揺れる眼差し、どれもが堪らなく愛しい。

「おれ、上になるからさ……風呂ンなか、浸かろ」

整わない呼吸に混ぜて囁くように告げられて、更に膨らむ期待。差し出されたその手を乱暴に引いてそのまま湯の中に沈めば、体温の上がった汗まみれの今の体に少し温くなったそれが心地良く感じた。

「これでお前の顔もよく見えるわ、」

満足そうに笑う妖艶な存在が、ゆっくり腰を落として、熱の滾る中心が再び彼の中に埋められていく。

「あ、は、ハハ、……っ、お前の、すげえ、風呂のお湯より、あつい……」
「翔くんの中だって、溶けそうだけど」

堪らなくなって両手でつかんだ細い腰を突き上げるように根元まで一気に沈める。
途端にあっ、と小さく呻く白い喉が仰け反って、緊張するようにその体に力が入る。

「それ、脱いで」

いつまでも体に張りつくシャツにすら気付けば嫉妬している、この肌も、全部俺だけの、

「むり、も、いーだろ……今更」

許可なくゆるゆると腰を動かしだしたその顔に官能の色が浮かぶ、

「ダメだよ、じゃあ手、あげて、両手とも。頭の上」
「なに、脱がしてくれんの?」
「いいから、はやく」

諦めたように笑いながらゆっくりと両手を天井に向かって伸ばしたその人が、

「いいよ、全部お前の好きにしろよ」

なんて言うから、

背中からたくし上げたシャツがその両手を抜ける寸前、思ってしまった。

「じゃあ、このままにしとこうかな」
「え?」
「いいんだよね、俺の好きにして」