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『帰れねえから泊めてくんない?』


耳の奥に流れ込む甘い声に、反射のように体の芯が痺れた。

同時にわきあがるのは微睡から引き剥がされた苛立ちをぶつけるように電話に出てしまったことの後悔。枕元の時計の表示は深夜0時をまわっている。


「……うちに?」

乾いた声が喉に張りつく。

『はは、悪い、寝てた?』
「……そりゃ、こんな時間ですから」

悪いなんて思ってないくせに。
わざと相手に聞こえるようにため息をついて、待ってる、とだけ言った。
きっと今いる場所からならこの部屋にくるのも自分の家に帰るのもほとんど変わらない。
なのに彼はここに来るという。
ふと見た窓の外を、暗闇にぼんやり光る大粒の雪が次々と落ちていく。
マンションの高層階、ここからは路面の状況までは見えないけれど、まるで満開の桜が散るように舞い続けるその勢いは正午過ぎに帰宅した時からほとんど変わらない。
きっとそこそこ積もっているはずだ。

だけど、だからなんだっていうのか。
降ってるから、帰れないから。そんな見え透いたいいわけを掲げて、彼は今からここに来る。

「……都合よすぎんだろ」

吐き捨てるように呟いたはずの自分の声が馬鹿みたいに浮ついている、そのことに後味の悪い後ろめたさを感じて思わず舌打ちをした。






ブザーの音。

意識してゆっくり迎えた玄関のドアが閉まると同時に、冷たい腕が抱きつく。


「松本あったけー、あーマジ生き返る、……ねえ、ちょっとぎゅってして?」

ぴたりと触れてくる冷たい存在にスウェット一枚着ただけの体の表面はすぐに熱を奪われていく。なのに、耳元に吹き込まれる吐息のせいで内側は微かに疼くように熱を持つ。

「風呂、沸かしてあるから入ってきたら?」

その身体を押し返しながら出来るだけ素っ気なく言い放てば、ご機嫌だった相手の表情が少し曇る。ほんと、馬鹿みたいに表情に出やすい人。

「あ、一緒にはいる?」
「……は?」
「なーんてな、うそだよ。あー俺これも好きなんだよな、おまえんちの、高級そうな石鹸の匂い」

人の首筋に鼻をつけて思いっきり息を吸い込む、満足そうに吐き出した熱い息が擽るように肌を撫でていく。思わずその体を抱きしめ返そうとしたちょうどその刹那、すり抜けるようにあっさりそれは離れていった。


気持ちを知っていて、こうして不意に自分のもとにやってくる。
なのに本心は絶対に晒さない、悪魔みたいな人だと思う。
見せつけるみたいにドアも締めずに脱衣所で服を脱ぎ捨て始めて、

「あ、ごめん、これだけかけといてもらえる?」

脱ぎかけのワイシャツと下着一枚を身に着けただけの無防備な姿になったその人が、振り向いて目が合うと同時に湿り気を帯びたダウンジャケットを差しだしてきた。
その腕を、強くつかんで引き寄せる。小さく声を漏らして腕の中に落ちてきた体を、そのまま背中から抱きしめた。

「……おい、」
「やっぱ、風呂より先に俺があっためることにした」

撫でた肩からずり落ちかけているシャツを顎で払って首筋にそっと口づける、肩越しにこっちを見ている相手の視線を感じながら数回軽く唇で触れたあと、不意打ちで舌を這わせれば途端に息を詰まらせたその呼吸が微かに震えだす。

「……松本、」

顔を上げて見つめた瞳の奥が揺れている、最初からその気でいる相手に火をつけるのは何も難しいことじゃない。
誘うように微かに開いた唇に自分のそれを重ねて、シャツの裾からしのばせた右手でまだ冷たい肌の上を撫でる。徐々に浅くなる呼吸、空気を求めて開かれる紅唇、もっと深く舌を絡ませて、咥内を翻弄する。
息の上がった体が熱を持ち始め、窮屈そうに主張しだしたそこが下着の上から見てわかる。堪らなくなって滑り込ませた手を、なのに咄嗟に掴まれて思わず相手を睨んだ。

「こっからは、さすがに……風呂、はいってから、な?」

欲情の色を滲ませたまま宥めるように微笑む瞳、キツいくせに、そういうところだけ常識人のフリをして、きっと楽しんでる。


「散々煽っておいてそれはないでしょ、」
「……潤」
「名前で呼んでもダメなもんはダメだから」
「なにガキみてえなこと言って、ん、……あっ、」

無視して勃ち上がりかけている中心を包むように握り込む、煩いよ、期待してるくせに。

「はっ、あ、……、まつ、もと……待て、って……!」

抵抗する声も甘い、揺れる腰はきっと無意識なんかじゃない、後ろから強く押し当てるように密着させた自身の熱に痺れるような刺激が伝染する。

「一回、イきなよ……ね、翔くん、イって?」

甘えるように耳元で囁けば、眉根を寄せた顔が色っぽく歪む。堪んない、煽られる劣情と、嗜虐心。

「あっ、や……下着、汚れんだろ、」
「どうせ脱ぐとこだったじゃん、洗濯するんだし汚していいよ……そのまま一緒に風呂はいろ」

吸い付くように何度も首筋に接吻を落としながら、徐々に誘う速度を速めていく。

「……あっ、やめ、あ、アッ、」

こっちの動きを制止しようと手首を掴んで抗っていたはずの力が抜けて、熱を扱き続ける手に重ねられた彼の手が上下する振動を共有しはじめる。最初からそうしとけばいいんだよ、どうせあんたは俺に抗えないんだから。

「……もう限界だね、ほら、」

漿液の溢れる先端を緩く押しつぶすようにしながら動きを強めると、熱の籠った呼吸があっという間に上り詰めていく。



「あ、も……イ、くっ、あ、アッ、……!」

支配欲が満たされていく、この手で愛しい人を絶頂に導く、この瞬間。
切なく漏れた甘い呻きとともに腕の中の体が大きく震えた。