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濡れた音を響かせて、漏れる吐息まで飲み込むような口付けを繰り返した。
その奥の歯列をなぞれば安易にひらいて柔らかな舌にとどく。
触れ合う粘膜の熱に、脳が蕩けていく。

「は……、じゅん……っ」

合間に喘ぐように名前を呼ぶ声に、熱を溜め込んだ身体が疼く。

「なに?」
「あ、あ……も、むり……」

手の中で膨らむ熱もそろそろ限界に違いなかった。

「いいよ、イッて」
「んっ、、やめ、……は、離せって……」
「いいから、ねえ、イって見せて」

こんな声で、こんな顔で感じるんだと何度も想像したその姿が目の前にあった。
今すぐ身体を繋げたい衝動に耐えて、せめてその声を飲み込みたくて濡れた唇を塞ぐ。
漏れる吐息はどうしようもなく甘いくせに悪足搔きのように腰を引かれ、思わず首筋に咬みついた。

「んあっ……あ、じゅん、潤……ッ」

強く吸い上げると一際甘く名前を呼ばれ、その腰が大きく震えた。
背に縋る腕に力が込められ、直後包み込んでいた手の中に熱いものが広がる。
放たれたものの感触に刺激される、いまだ解放を待つ自身の欲望。
胸に広がる充足感と反対に、焦がれ続ける身体の疼きは吐き出すことを主張してやまない。

弛緩した中心のかたちを確かめるように指を這わせて掬い取れば、脱力した愛しい人の身体がぴくりと反応した。

「……なにしてんだよ……」
「自分で拭く?」
「……そうじゃなくて……はぁ……」

肩で息をしていた櫻井が大きく溜息をつく。
放心した眼差しで天井を見つめる横顔には、十分すぎるほど快感の余韻が残っているのに。突き放すような口調に、さっきまでの甘さはもうない。

「切り替え早過ぎ」
「……え……できてるわけねえだろ、切り替えなんか」

数分前まで縋るように自分の名前を呼んでいた唇がもう恋しかった。
今満たされたものが永遠に持続するなんて思っていない。櫻井も自分も、きっとじき後悔するんだろう。

もしかしたら、この瞬間にも。


そう思っても。

「じゃあまだしていいよね?」
「……は」
「続き、俺も限界だから」

慌てて身を起こしかけた櫻井に瞬時覆いかぶさるように唇を重ねてベッドに押し戻す。
引く気配のない下半身の熱は相変わらず痛いくらいに解放を主張している。

「んっ……んん」

押し返す手に肩を掴まれ、唇を離す。

「嫌?」
「っ……嫌とか……わかんねえけど、さっきの、お前みたいなこと……俺にはできねえし」

少し不憫なくらいに掠れた声。自分を拒んだわけじゃない、そのことにほっとした。
たとえそれが櫻井にとって劣情を逃し足りない身体の熱がそうさせているだけの、不本意な判断でも。
あんな姿を見せられて今更引けるわけがない。

「大丈夫だよ、翔さんは何もしないで。

っていうか後ろむいて」

戸惑うように揺れる瞳を一瞥して、撫でた肩をそっと支えその身体をうつ伏せに返した。

「なんだよ、これ」

肩越しに松本を振り返る櫻井のうなじに唇を寄せると、容易く反応する狡い身体。

「一緒に気持ちよくなれる方法」

そのままさっきまで咬みついていた傷口まで辿るようにキスを落とせば、すぐに観念したように櫻井が枕に顔を沈めた。
その身体の中で消えかけている快楽の火を再燃させるように、歯を立てずに舌で吸い付くように傷口を吸い上げる。
枕に埋もれた呼吸が荒くなるのを確かめて、再びその下半身に手を伸ばた。、吐き出したばかりの残滓で濡れた指を後ろに這わせると、櫻井が反射的に顔を上げて叫んだ。

「なっ、なんだよ!」
「……大丈夫だって、気持ちいいと思うよ」

そのまま中指できつい内側を押し広げるようにゆっくり挿し入れると、目の前の白い背中が仰け反った。

「あ、いっ……無理だって、むり……!そんな、とこ……っ」
「少しだけ我慢して……?」
「はっ……んん……我慢って……」
「ちょっとだけ」

櫻井に言い聞かせながら、松本自身侵入したばかりの指にうねる内側が絡みつく感覚におかしくなりそうだった。