こちらはBL(潤翔)の妄想小説になります。
苦手な方は御遠慮ください。
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七夕の話.⑧
Side 翔
いつのまにかとんでもなく男前になった。
俺なんかより、ずっと格好いい奴になってしまった。
「やっとだな」
静かに降り続ける口づけの間に捻じ込むようにそう言った。
動きを止めて顔を上げた潤と目が合う。
「一生聞けねえのかなー…って、思ってた」
途端に長い睫毛に縁どられたその瞳が大きく開き、見る間に綺麗な顔が歪んだ。
「はは、またガキみたいな顔してる。どうしても変わんねえみたいだな、お前の泣き虫は」
さっきよりもとめどなく溢れ続けるそれが、彼の頬に当てた俺の指先を見る間に濡らしていく。
その手を上から握られ、そのまま潤が俺の胸に顔を埋めた。
「……言うつもりなんて、なかった……でもずっと好きだったんだよ、ずっと……好きだった」
震える声が胸に響く。
声を殺して静かに咽び震えるその背中をさすりながら、彼の柔らかな髪をそっと撫でた。
潤の中で自分がなにかしら特別な存在だということには、こんな関係になるずっと前から気づいていた。
ただ俺にはその意味を確認する度胸も覚悟もなく、どうにもならないまま時間だけが流れた。
少しして、泣きつかれた子供のような顔を上げた潤がそのまま唇を重ねてきた。
吐息まで飲み込むような深い口づけに、脳も身体も蕩けていく。
苦しいほどに、満たされていく。
──三年前、潤の部屋で短冊を見た時これで何かが変わると思った。
浮かれた気持ちでいた俺に、だが目を覚ました潤は早く帰れと言った。
それでも粘った。本音を聞くのも、伝えるのも今夜しかないと思った。
だけど結局潤の口から確信を持てる言葉を聞くことはできず、それならせめてと意を決した矢先に。
「俺のこと、好きだって言って」
凄艶な甘い瞳に間近で見つめられ、心を読まれたかと思った。
だけどすぐにそうじゃないと気付き、そして落胆した。
誘うにしてはあまりに切なく今にも泣きそうな顔だった。
潤は俺の気持ちを知らない。
その潤に、好きだと言ってくれと言われてしまった。
……バーカ。
言われなくても、言ったのに。
今俺の喉まで出かかっていた言葉は、彼の期待に応えた“台詞”として届くだけだと思った。
そうじゃないと熱弁できるほど彼の前の俺は饒舌じゃない。
きっと、俺の本心は伝わらない。
この日のこと全てを一夜限りだと言う潤に、そんなことを言うなとも言えなかった。
多くを望んでいない彼に今何を言っても真意を伝えられる自信がなかった。
ただこの時にはさすがにもうわかってしまった。
彼が俺をどんなふうに思っているのか。
──弱虫。
潤も、俺も。
彼の気持ちを確信した途端、馬鹿みたいに愛おしさが止まらない。なのに、その胸に飛び込むことが出来ない。
言葉が届くことがないのなら、この想いをどうしていいのかわからない。
待つしかないと思った。
潤がもっと、俺を求めてくれるのを。
カタチだけだとか一夜限りで良いだとか、そんな余裕もなくなるほど、
俺に貪欲になることを。
届かない本音をのせたカタチだけの言葉を、そっと彼に差し出した。
「……好きだよ、潤」
こんな言葉で満足しないで。
もっと俺を、好きになって。