こちらはBL(潤翔)の妄想小説になります。


苦手な方は御遠慮ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七夕の話.⑥








三度目、去年の七夕。


翔くんからの連絡はなかった。

そもそも逢う約束なんてしていないのだから当然と言えば当然で、それに加えてその日翔くんには日付けを超える直前まで仕事が入っていた。

七夕を言い訳のようにしてこの関係に持ち込んだ俺には、前後に日をずらす勇気なんてなかった。


ただ、だからといって諦められる訳もなく、逢える保証もないまま彼の出ている番組の収録現場へ車を走らせた。
行って逢えなければそれまでだと思った。


深夜が近づく地下駐車場。

人の出入りは多くない。

目的の車を見つけ、そのすぐ近くに駐車した。



時計の針が零時を回る頃、こちらに向かって歩いてくる翔くんの姿を見つけた。
見慣れた白いTシャツに深くキャップを被った彼が一人でいるとわかった瞬間、気付けば運転席から飛び出していた。

「翔くん!」

驚いたように顔を上げた彼と目が合う。

冷静でいるつもりだったのに、名前を呼んだ自分の声が間抜けなくらいに必死できっと笑われると思った。


「なんで、お前……、なんて顔してんだよ」

予想通り呆れたように笑う翔くんは、だけど、彼のほうがよっぽど泣きそうな顔をしていた。


そっちこそ、なんて顔してんの。


もしかして迷惑だった?


「ごめん。今夜しか逢えないと思って」

「いつも会ってんだろ、昨日も収録あったし」

被っているキャップのせいで、少し俯いてこちらに歩いてくる翔くんの表情はもう見えない。

「……そうだね、でも──」

誰が来るかもわからないこんな場所で、そのまま翔くんに抱き締められた。

ふわりと香る、彼の香り。

首筋にうずめられた頭の重みも何もかもがどうしようもなく愛おしかった。
思わず背中に腕を回すと、一層強く抱き締められた。

すうっと深く息を吸い込んだ翔くんが、吐き出すように小さな声で、ひさしぶり、と囁いた。