こちらはBLの妄想小説になります。

苦手な方は御遠慮ください。











 






「マニュアルですか、それ」


「……え?」


──翔ちゃんのことなんも知らないんだ


雅紀の言葉を思い出した。
そして、知ろうとしたところで俺には所詮教師としての彼しか知り得ないのかもしれない、と気付いてぞっとした。


「……そうかと言われたら、そうなんだろうな。ごめん、俺がお前にできるのはこれが精一杯だ」


この番号を受け取ったら、終わってしまう気がした。

今まで先生に想いを寄せてきた奴らと一緒に、俺の気持ちもきっと優しく丁寧に包まれて片付けられてしまうんだと。


やっとほんの少し近づいたと思った目の前の先生が、また消えてしまう。



「……先生、ちょっと痩せたね」


あの日以来、手が届くほどの距離で先生に近づくこともなかった。

だけど、先生が俺のことを明らかに意識しているのは分かっていた。


挨拶はしても、授業で指名されても目が合わなくて。そのくせ俺が見ていない時には視界の隅でこっちを見ていることにも気付いてたから。

数日だけど、なんとなく先生の華奢な身体の線が前より目に付くようになって。


それも確実に俺のせいだと思ってた。


「俺が言うのもなんだけど、教師なんてさ、みんなそれなりに良くみえたりするもんなんだよ。特にお前たちぐらいの年頃の奴らから見たら」


「……今までみたいに対応すれば良いって、はなからそう思ってたの?」


説得にもならない先生の言葉を無視して俺が聞くと、一瞬言葉を詰まらせた先生がすぐに力なく笑いながら頷いた。


「そう、だな。ごめん。むしろそれしか考えてない。教師と生徒ってそういうもんだから」



……うそつき。


そっと先生の頬に触れた。
驚いた先生が大きな目を更に見開いて俺を見つめた。

だけどすぐにほんの少し身をよじって、俺の手から先生の温もりが消えた。


「そんな人が、こんなに痩せないよ」


「っ……」


困惑の色を滲ませた瞳で俺を見る先生に、胸ポケットに入れられたものを差し出した。


「たった数日で俺でもわかるくらいやつれた顔しといて、こんなもん渡してこないでよ」


俺みたいなただの一人の生徒のために、少し痩せてしまったあなたの脆さも。


なのに割り切っているふりを装うあなたの優しさも。


「俺、待ってる。先生自身の答えが見つかるまで待ってるから。俺もこの気持ちがただのあんたの見てくれに釣られただけのものなのかどうか、ちゃんと確かめるから。
だから、俺のやり方で先生のことをもっと知りたい。俺のことも知ってもらいたい」



「松本、俺は……」



「一緒に見つけさせてよ、俺たちの答え」



貴方を知るたび、好きになるから。




教師としてじゃない、貴方という人を俺は知りたい。