こちらはBLの妄想小説になります。
苦手な方は御遠慮ください。
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「あ!松潤もしかして道着姿見たことないでしょ」
着いたのは剣道部の活動場所、第二体育館。
中を覗きながら背後の松潤に話しかけた。
けど、松潤からの返事はない。
そりゃそうだ。
今の発言もきっと良い気はしなかった、よな。
なんだかもう、翔ちゃんに関しては全部がマウントみたいになっちゃうのは自覚してた。
ごめんと思いながら、でもこれくらい許してよとも思ってる。
「先生いないじゃん」
いつの間にか俺の隣で同じように体育館の中を覗き込んでいた松潤が言った。
「あれぇ、いつもはちゃんといるんだけどな」
確かにお目当ての人物の姿が見当たらない。
きっと本人は冷静無表情きめこんでるつもりなんだろうけど、面白いくらい露骨にがっかりしている松潤に何か言ってやりたくなった。
「んー、どっかで誰かとズコバコしてたりすんのかなあ」
「……何なのお前」
お、食いついた。
「ズコバコしたいうちの一人だけど」
「……マジで何なの」
あー怒ってる怒ってる。
でもこれ、完全に冗談って訳でもないんだけど。
だってそうでしょ、誰だって好きな人とはそういうことしたいもんじゃん。
俺だって翔ちゃんと──
「お前ら何やってんの?」
不意に背中から声がした。
振り返ると、紺色の道着に身を包んだ翔ちゃんが立っていた。
「翔ちゃん!」
思わず翔ちゃんを抱き締めそうになった俺の隣で、ガタッと大きな音がした。
驚いて見ると、松潤がまるで漫画みたいにしりもちをついて後ろに転んでいた。
「松本っ?」
俺が言うより早く、驚いた翔ちゃんが名前を呼ぶ。
「ってえ……」
「え、松潤なんで転んでんの」
実際痛みもあったんだろけど、それ以上に気まずそうに顔を顰めている松潤。
まあ……そっか。そりゃびっくりしたよね。
会いたかった人がいきなり目の前に表れたらさ。
しかも、あんな話をしてる最中に。
「大丈夫か?」
翔ちゃんが右手を差し出した。
躊躇うようにその手を見たまま、松潤が固まる。
「ほら。手、貸してやるよ。俺が驚かせたみたいなもんだろ、悪い」
そう言って翔ちゃんが笑った。
「……どうも」
松潤が、翔ちゃんの手を掴む。
あー…まずい。
今、俺、笑えてるかな。
別に悲しいことなんて何もないんだけど。
ただ、
こういうの気付いちゃうのはちょっとやだ、かも。
その手も、あの笑顔も、ずっと見てきた。
だから分かってしまう。
何だかちょっと普段と違う。
その笑顔がほんの少しだけ硬くて、差し出したその手もほんの少し、緊張してる。
最近の翔ちゃんは、俺に対しても同じようにそうやって僅かに構えることが増えた。
そうされること自体は複雑な気持ちではあったけど、それでも何も意識されていないよりはマシだと思ってたから。
だから、少なくとも翔ちゃんにとって“その対象”が俺だけじゃなくなったんだって、そのことが、なんだかほんの少しだけ……
おかしいな。
それでいいと思ってるはずなんだけど。
俺、笑えてる自信がないよ。