こちらはBLの妄想小説になります。

苦手な方は御遠慮ください。














【side 翔】





今のクラスを受け持ち一カ月と少しが過ぎた。


教室内の雰囲気も落ち着いてきて、俺自身も徐々に生徒たち一人ひとりの特徴なり性格なりをざっくり把握できてきたように感じていた。



……その、つもりだった。



「なんだこれ」


思わず俺の口から飛び出た言葉に、すぐ隣のデスクで作業をしていた別のクラスの先生がこちらを見た。


「あ、すみません……」


今日実施した小テストの採点をしていた。
作業は順調に進み、この休み時間中には終わるだろうと思っていた。


……松本潤、だよな。


その答案用紙の回答者の名前を確認する。
何度見ても“松本潤”と書いてある。


松本って、こんなことするんだ。


俺が何度も名前を確認したのは、答案用紙の余白に描かれた“それ”が俺の中の松本潤のイメージとあまりにも合わなかったから。
いや、正直まだそこまであいつのこと知らないけど。


……っていうか、これって、


「オムライス、ですかね」


ふいに耳元で声がして思わずびくっと体が跳ねた。
視線を向けると、さっきこっちを見てきた隣の先生が俺の手元の答案用紙を覗き込んでいる。


「オムライス……」


やっぱりそうだよな、と心の中で頷いた。

余白部分に小さく描かれた落書き。
半月をうつ伏せにしたような形が楕円形の枠に囲まれている。
上手いかどうかは別として、確かにこれはオムライスだ。
ご丁寧にスプーンまで添えてあるし。


「松本君、お腹減ってたのかしら」


俺より一回り年上のその女性教師は、ふふふと笑って「松本君にだったらオムライスでもなんでも作ってあげたくなっちゃうわね?」と俺を見ながら言った。
同意を求められても困るけど。そうですね、と俺は曖昧に笑った。


落書きねえ……。
手に持っている紙へ視線を戻す。


高校生にしては大人びた雰囲気の松本は、いつもどこか周囲に対して冷めたような態度でいることが多かった。周りと一緒にはしゃいだり、大声で笑うようなところも見たことがない。

結果、この一カ月余りで俺は完全に松本を“そういう奴”だと認識していた。


そのせいなのか、その絵をじーっと見ていたらなんだかちょっと笑えてきた。


なるべく生徒一人一人と少しでも多く話すように意識して過ごしてきたつもりだが、そう言えば松本とはまだ一言二言程度しか言葉を交わしていない気がする。


……丁度いい。

松本と、少し話をしてみるか。


ウザい教師だと思われるかもしれないけど、やっぱり相手を知るには言葉を交わすことが一番だ。
そのきっかけにこのオムライスを使わせてもらおう。