こちらはBLの妄想小説になります。
苦手な方は御遠慮ください。
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翔ちゃんはオムライスが好き。
ものを食べてる時の翔ちゃんってめちゃくちゃ可愛いんだよ。
苦手なものは高いところとか、怖い話とか。
運動は嫌いじゃないけど、めちゃくちゃ身体が堅いし、ちょっと鈍臭いところもあるからなんとなく苦手そうに見えるかも。
とにかくものすごい頑張り屋さんで、とんでもない量の本とかたくさん読んでて。
周りの人のことをよく見てるし、面倒見も良くてしっかり者で、絵に描いたような「頼れるお兄ちゃん」みたいな人。
だけど昔は左耳にピアスを開けてたし、結構やんちゃしてたんだよ。あ、ほら、俺も同じ左耳にピアスしてんの。
カラコンもしてたしね…あ、おへそにもピアスしてたっけ。そう考えると翔ちゃんってけっこう振り幅広いんだよね。
それから雅紀はことあるごとに俺にくっついてきて、暇さえあれば先生の話を聞かせてくるようになった。
俺はと言えば、そんな雅紀の話を聞きながらたいしたアクションもできずに相変わらず先生を眺めているだけの日々が続いていた。
毎日会って、その声を聞いて。
彼の言動一つ一つが気になって。
最初はただその見た目と柔らかい物腰に惹かれただけだったのに、そこに雅紀から聞かされる話も加わり彼を知るたびに思いは募っていった。
雅紀の話は先生の人となりが分かるような話は勿論、他愛もないようなものも多かった。
だけど、どんなことでも先生のことを知れるのは嬉しかった。
時々微かにチリチリと胸の奥が焼けるような感覚が訪れても、きっと俺がただ好きでいても知ることができなかったことなんだろうと思えば素直に聞くことができた。
ただ、逆に俺からする質問に対する雅紀の反応にだけは、なんとなく納得がいっていなかった。
雅紀はいつもそれにははっきりと答えることはなく、聞きたいことは山ほどあるのにほとんどが宙ぶらりんのまま流されていた。
「昔って、お前いつから先生と知り合いなんだよ」
ある時俺がそう聞いた時も。
「うーん、生まれる前から、みたいな?」
「……」
「あ、嘘だと思ってるでしょ?本当だよ、俺生まれる前から翔ちゃんと知り合いなの」
「……意味わかんねえ」
「ふふ、だよねえ。俺もよくわかんない」
「……じゃあお前と先生ってどういう関係なの?」
「うーん……俺は言ってもいいと思ってるんだけど……あ、でも、もう今は松潤には言いたくねえな。ごめん、ナイショってことで!」
そう言ってごめんねと両手を合わせて笑う雅紀をみて、もうほとんど俺は二人が付き合ってるんじゃないかと思っていた。
じゃなかったら他に何だと言うんだろう。
忘れていたら良かったのに、始業式の日に廊下で二人を見たあの時雅紀が先生に「プライベートでも」なんて聞き捨てならない言葉を言っていたことまで思い出してしまっていたから、尚更だった。
ただ、だからと言って自分の中に生まれてしまった先生への気持ちをなかったことにすることも、俺にはもう無理だった。真っ直ぐ進むことも、戻ることもできない。
結果、何もできずに時間だけが流れていった。
「じゃあ聞くけど、何で俺に先生の話すんの?お前先生が好きなんだろ、俺のこと邪魔じゃねえの?」
「……松潤と俺はライバルだよ。でも松潤のことは邪魔だとは思わない」
「全然わかんねえ……あ、俺が何もできないから?相手になんないって意味?」
「そういう意味じゃ……」
言いかけて、雅紀が思い直したように「あ」と声を漏らした。続いて、
「うん、そう、そうだよ!松潤ほんと何も動かないじゃん。やる気あんの?って感じ!だからもう全然邪魔にもなってないって、そういう意味!」
やけに張り切ってそう言ってきた。
今思いついたのバレバレなんだよ。
マジで何がしたいんだ、こいつ。
俺は怒る気にもなれず、じとっと冷めた目で見てやった。
すると目が合った雅紀がふと真剣な顔になって。
「そんな超奥手の松潤に、一つだけ良いこと教えてあげる」
急に何かを企むような顔をして、俺の耳に口を寄せた。
「翔ちゃんね」
雅紀の息が、耳をくすぐるように揺れた。
──キスしてって言うとしてくれないくせに、チューして、って言えばしてくれるんだよ。
幾分潜められた甘い声で紡がれたその言葉の意味を理解するより先に、その情景が生々しく脳裏に浮かんだ。途端にドクンと心臓が大きく脈打ち、一瞬にして身体中が熱くなった。
「……俺にだけかもしれないけどね」
そんな俺の熱くなった耳をそっと撫でて、雅紀が笑った。
ああ、気付かないフリをしてたのに。
「まあ、せいぜい頑張りなよ」
じゃあね、俺今日部活行くから、と足取り軽く去っていく雅紀の背中を眺めながら。
この時になって俺はやっと、今まで見て見ぬフリをしてきた自分の中の感情からもう目を逸らすことはできないと悟った。
──相葉雅紀への嫉妬。
そうだ、俺は雅紀に嫉妬してる。
彼のおかげで先生を知れたとしても、そこに借りが生まれたとしても彼を羨む気持ちは変えられない。
ただ勝ち目がないと決めつけて、同じ土俵に立つことから目を逸らしていた。
だけど、もう無理だ。
あいつがどんなつもりなのか、何の魂胆があって俺に近づいてきたのかはもうどうでも良い。
そんなことより俺は。
俺は、
先生、貴方に近づきたい。