こちらはBLの妄想小説になります。

苦手な方は御遠慮ください。

















「松潤の翔ちゃんを見る目、完全に恋してる目なんだもん」


自分じゃ気付いてないと思うけど、と相変わらず楽しそうに喋る隣の男。
呆気に取られていたら、あ、俺のことは雅紀って呼んで。お前とかなんか寂しいじゃん、といきなり距離を詰められた。


まずはこいつ──雅紀が、先生のことを好きだという事実。


……本当なのか?

本当だとして、それは俺と同じ意味の“好き”なのか?


それから俺は傍から見てもわかってしまうくらいにそんなにだらしない顔をしていたのだろうか、先生の前で。


じわじわと混乱していく頭で俺が何も返せずにいると、雅紀から聞こえていた笑い声がぴたりと止まった。


「いつから?」


「……え?」


「いつから好きなの?翔ちゃんのこと」


変わらず優しく耳に届く声だったが、僅かに今までよりもトーンを落として聞こえた。


「俺はね、もうずっと前から」


「……」


「松潤と翔ちゃんがこの学校で出会うよりずっと前から、翔ちゃんのことが好きなんだ」


──思い出した。

始業式の日、確かに雅紀と先生はやたら親しそうにしていた。廊下ですれ違った時、先生が一緒にいた生徒に「学校で変なこと言うなよ」なんて意味深なことを言っているのが聞こえたんだ。

今思うと、あれは雅紀だった。


──もしかしたら、雅紀と先生は。


そんな彼にたった数日で傍から見てもわかるぐらいに先生に惚れ込んでしまっていることを見破られた。唐突にそんな自分が居た堪れなく、滑稽に思えた。


「……始業式。一目惚れだった」


勝ち目のない相手に、もはや見栄を張る気力も嘘をつく気もなかった。

笑いたければ笑えばいい。


「そっか……じゃあ松潤はまだ翔ちゃんのことなんも知らないんだね」


案の定、マウントを取られたと一瞬思った。
覚悟はしていたけどついカッとなって思わず顔を上げた俺の目の前に立つ雅紀は、予想に反して少し難しい表情を浮かべ何かを考え込んでいるようだった。


「ね、松潤って、頭いいの?」


ふいに顔を上げた彼が明るい声で言った。


「……は?」


「将来なんか有名な良いトコに勤めちゃうくらい頭いい?できたら社長になっちゃうくらい。あ、そういや何回か松潤の名前貼りだされてるの見た気がする……ってことはまあまあ?」


あとは、料理できる?それから部屋の片づけと、家事なんかも……って、まだそんなのしないか、高校生だしね、俺ら。まあ俺は全部できるんだけど。あ、勉強以外ね。ふふふ。


さっきのあの表情はなんだったんだと言うくらい饒舌に喋りだす雅紀。彼の言いたいことが全く分からなくて、俺は口をはさむタイミングを見失ったままただ黙って聞いていた。


「浮気は?何回くらいした?」


だけど唐突にねじ込まれたこの質問には思わず腹が立って。


「したことねえよ!まずこんなに誰かを好きになったことだって…っ」


気付いたら声を荒げていた。
すぐに我に返り、自分がとんでもないことを言いかけたことに気づいて血の気が引いた。


くそっ……。


再び黙り込む俺を、雅紀は少しの間黙って見つめていた。


「……勉強は多分お前よりはできる、料理も趣味でよくやってる。家事は……わかんねえけど昔から姉ちゃんより使えるとは言われてた」


なんとなく、黙ったままでいることが癪で、沈黙にも耐えきれなくなって適当に質問に答えてみた。
雅紀の目を見れなくて視線を落としているとそのうちにふうっと静かに息を吐く気配がして、それと同時にその場で滞っていた空気もゆっくり流れ出したように感じた。


「いいよ、松潤なら。翔ちゃんのこと、教えてあげる」


顔を上げると、優しく微笑む雅紀と目が合った。