こちらはBLの妄想小説になります。

苦手な方は御遠慮ください。













きっと



好き過ぎて疲れたんだ。


なんで俺ばっかりって。


















「好きじゃなくなった」






「…え?」





俺の目の前でずっとスマホの画面を凝視していた翔さんに向かって、気づいたらそう言っていた。





「なに?」




顔を上げた翔さんと目が合った。
さっきまであんなに眉を顰めて難しい顔をしていたのに。
今はその表情は穏やかで、なんなら少し微笑んでるくらいで。


なんで笑ってんの。

俺が言ったこと聞いてた?



…聞いてなかったよね、全然。


例えばこんな小さなところ。こう言うところでもいちいち傷つくんだ。俺といるのに少なくともさっきの瞬間は完全に彼の中に俺がいなかったと、悪気なく思い知らされている気がして。





今はあなたの笑顔が見たい訳じゃない。



無性に腹が立った。


目の前の翔さんにも、間違いなく苛立っているのに、こんな時でも俺を見つめる翔さんに馬鹿みたいに少し胸がときめく自分にも。






「翔さんのこと、もう好きじゃなくなった」





その苛立ちをぶつけるように、少し強めにさっきと同じ言葉を彼に投げつける。
確かに自分の口から出たものなのに、なんだかもう誰の言葉なのか分からなくなった。
とにかく翔さんが傷つく顔がみたかった。

…だけど。






「あっははは」







傷つくどころか





「ごめんな?携帯ばっかやってて。今ちょっと人から相談事受けててさ」



いかにも楽しそうに笑った彼は、手にしていたスマートフォンをテーブルに置くとその手を伸ばして俺の頬に触れてきた。





「寂しかった、よな」




「…………」




…悔しいけど、堪らない。

2人だけの時にしか見せないその甘い表情が。それに負けないくらい甘く、優しく耳に響くその声も。




頬を撫でる綺麗な指と、温かいその手のひら。


真っ直ぐに俺を見つめる大きな瞳。





…悔しい。





どうして俺は、こんなにも容易くこの人に絆されるんだ。







「わかりやすい嘘つきやがって」






知ってる、この聡明な人が子供みたいな俺の言葉に釣られる訳なんてなかった。





そうだよ、嫌いになったなんて嘘だよ。




好きだよ。

あなたの全部が好きだ。




それも、どうしようもないくらいに。







仕方ないなというように、唇の片端を少しだけ上げてくすっと笑ったその顔がゆっくり近づく。

あ、また俺の好きな顔…。彼の自信に満ちたその笑みが昔からずっと好きだった。
あんな風に笑える男になりたいと、そう思っていた頃もあった。だけど今はそうじゃない。

その笑顔を、視線を、自分だけのものにしたい。


頬に触れていたその手が滑るように耳を撫でて、そっと首に回された。




少し動けば唇が触れる距離。ほとんど条件反射のように彼のふっくらとした唇に視線がいって、期待で胸が高鳴った。





「嘘じゃなかったらどうすんの」





だけど俺はそれを隠してそう言った。俺にできる彼への精一杯の反抗。


彼の動きが一瞬止まり、さっきまで俺を見ていた視線は何かを考え込むように下に落とされた。



その沈黙が少し長くて、自分から吹っ掛けたくせに不安になる。



思わず名前を呼んだとほとんど同時に。




「……翔さん」


「キス、する?」





「……え」




「嫌ならしねえよ。どうする?」




目と目が合うと、誘うように彼が目を細めた。
じんわりと、でも確実にその視線が俺の体を熱くする。


何か、言わないと。



こんなことで動揺してるなんてバレたくない。




そう思うのに、とりあえずで開けた口からはなんの言葉も出てこない。




…ああ、やっぱり


やっぱり無理、だ。俺には。


この状況に、唐突に心が折れる。この人は俺に追いつかせてくれない。勝てないどころか並べもしない。



俺は、俺はただあなたに―





「生意気に人の心揺さぶろうとしてんじゃねえよ」




痺れるような声でトドメを刺された。

何も言えない俺の唇を、そのまま目の前のきれいな人が優しく塞いだ。