ちょっとしたブームのジャンル
深川の出世不動尊
「出世」という言葉は、元々は仏教用語からきている。
なので、英語などに対応する語がない。
英語では「succeed in life」とか「way up to the top」など
それぞれの状態を表現することになる。
ちなみに、仏教では「悩みや迷いから離れ、世俗を超越」することを言うようだが、日頃私たちが使う言葉では、出世はすればするほど悩みや苦労が増えることを指す。
なんとも皮肉なことではないか。
そのせいなのかも知れないが、「出世」とつく寺社が最近はずいぶん増えた気がする。
「出世したい人」も「出世で悩んでいる人」も「出世を見守る人」も神頼みの世の中なのだろう。
今回は都内の「出世神社」「出世寺」をピックアップしてみよう。
○まずは就職祈願の神さまたち
市谷亀岡八幡宮のお守り
実はこの「出世・就職祈願」をテーマにするのは3回目である。
なぜなら、年々「就活」のお守りを扱う寺社が増えてきているためだ。
それほど切実なのか、はたまた神頼みな人が増えたためか。
いずれにせよ、今回は「出世」専門の寺社を中心に紹介しよう。
もっと知りたい人は、末尾に記した「関連記事」をご参照ください。
被官稲荷
「浅草神社」被官稲荷
これは、去年も書いたがみんな知らなすぎるのではないかと思う。
浅草寺の境内にあるがれっきとした神社である浅草神社、この本殿の右手裏手にある小さな社が「被官稲荷」だ。
浅草寺がどんなに混雑していても、この社にはたいていの人が気づかない。
もったいないので是非!
江戸の町火消し・新門辰五郎が鳥居を奉納。娘は徳川15代将軍・慶喜の側室になっている。
江戸っ子の訛りで「ひかん」が「しかん」となり、仕官、つまり就職するという意味に繋がっている。
小さいのにたくさんの鳥居が奉納されていることが、そのご利益の証では?
明治神宮
「明治神宮」
平成25年から「就職成就」お守りが登場。
全方角の祈願を受けてもらえる明治神宮に、今まで「就活守」がなかったのが不思議なくらいだ。
今年は「蚊」のおかげでずいぶん参拝者も減ったようだが、やっぱり初詣と言えば、明治神宮。
就職祈願にはもってこいである。
御神木
「大國魂神社」 御神木
大國魂神社は東京にある寺社の中では古社中の古社である。
厄払いや安産祈願、商売繁盛としても有名な神社だが、
このところ人気急上昇中なのが本殿右横に大きくそびえる樹齢1000年の大銀杏である。
もちろん御神木なのだが、このイチョウの木をケータイの待ち受けにして、自分が祈願するお守りを持つと一層のパワーアップが期待できるのだとか。
就職祈願や出世祈願をして授与されたお守りとケータイをともに肌身離さず持ち歩くべし。
「湯島天神」 戸隠神社
詳細は別項にて。今回は耳寄りのつけ足し情報を。
夫婦坂近くにある摂社・戸隠神社にも祈願をお忘れなく。
戸隠中社の神さま天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)は、出世開運、クリエイティブな仕事・技術向上の神さまとして知られている。
ちょっと私もこのところご無沙汰なので行ってこようと思っている。
○出世や行き詰まった仕事を
円滑にしてくれる神さまたち
東照宮の絵馬
もー、どーしていいかわからん!という時ほど、人は神頼みになりがちである。
ご利益なのかどうかは分からないが、神社やお寺の境内をブラブラしていると、不思議といいことを思いついたりする。
「芸」とか「技術」を要する仕事の人たちには特に人気である。
人間の目には「緑」とか「土色」なんかの彩色がよい刺激になるのかも。
上野東照宮
「東照宮」
実は東京には「東照宮」が2カ所にある。上野公園の中と、芝増上寺の隣である。
どうして東照宮が「出世」につながるか。
もちろん祭神の徳川家康公が天下人になった人であるということもある。が、むしろ家康が「たぬき」と呼ばれていたことに由縁するようだ。
「他をぬく」→出世である。
これは、柳森神社・福壽いなりや浅草寺・鎮護堂の“おたぬきさま”と同様だ。
芝の東照宮は、芝大神宮の管理となっているためか縁結びや結婚式場としても好まれているようである。
この後に及んで東照宮の紹介をしていないことに今さら気がついた。
次回は東照宮を取り上げよう、うん。
・出世稲荷神社
ここからは町中に鎮座する社も含めて「出世稲荷神社」を紹介。
代々木八幡宮 出世稲荷神社
「代々木八幡宮 出世稲荷神社」
詳細は別項に。平日でも混んでいる出世稲荷。
実はどうして並んでいるんだろーといつも不思議に思っているのだが。
本殿では、並んで拝んでいる人も多いのに、ここのお社はいつも一人ずつ。
なお、鳥居横のしゃんとしたお狐さまにもちゃんと挨拶しよう。
出世稲荷神社
「市谷亀岡八幡宮 出世稲荷神社」
詳細は別項に…と書こうと思ったら、何と!市谷亀岡八幡宮の回でほとんど出世稲荷神社の説明をしていない!
市谷亀岡八幡宮は、江戸時代それはそれは大きな八幡さまだった。いろんな神さまたちも集まってきたのだが、出世稲荷神社もそのひとつ。京都伏見の稲荷大神を夢に見たお侍さまが、祠を建て毎日熱心に拝んでいたところ、トントン拍子に出世、やがて大名にまでのぼりつめたという逸話を持つ稲荷神社である。
江戸中の話題となったこの出世稲荷神社は、成田山新勝寺の「開運出世稲荷」へも勧請されていった。
深川開運出世稲荷
「深川不動堂 深川開運出世稲荷」
成田山新勝寺の開運出世稲荷と同じ吒枳尼天を祀る社。
「願掛けきつね」の中に祈願書を入れて奉納する。
お寺の中に鳥居があり、赤いのぼりが立っているので境内でもかなり目立つ。
出世稲荷明神
「西新井大師 出世稲荷明神」
昭和時代に建てられた社だが、このところ注目されている。
弘法大師と稲荷明神(伏見稲荷)の関係は深くて、京都の東寺はじめいろいろ言い伝えが残っているが、東京においてそれを表現しているお寺は少ない。
弘法大師も助けてもらったお稲荷さまということである。
出世稲荷神社ほか2神
「赤城神社 出世稲荷神社」
詳細は別項にも記したが、出世稲荷神社は赤城神社がこの地に遷座してくる前からこの場所に鎮座していた神さまである。
今では、商店街の商売繁盛祈願とともにサラリーマンのお仕事円満祈願の社として知られている。
余談だが、ドラマ・ラストシンデレラでは本殿ばかりにお参りしていたが、出世稲荷神社にも参拝すべきだったと、ちょっと残念に思うのである。
「日本橋 出世稲荷神社」
初代市川團十郎を出世させたという出世稲荷。マンションの敷地の一角にありなかなか見つけにくいが、多くの実業家や芸能人の出世も手助けしたと言われている。
関東大震災の折焼失、再建には椙森神社の拝殿を削り直して使用したという社である。
抜弁天 出世稲荷神社
「抜弁天 出世稲荷神社」
太田道灌が創建、桂昌院からも多くの寄進を受けた「粟津稲荷」「朝日稲荷」と呼ばれていたが、明治期に「出世稲荷」に改名。
すぐそばには、抜弁天として知られる厳嶋神社がある。
この辺りは現在「余丁町」という地名だが、元々は旗本の組屋敷が集中していた所。
出世祈願も盛んだったことだろう。
・出世不動尊
さて、ここからは「出世不動尊」と呼ばれるお不動さまを祀る社である。
でもほんといつも思うのだがお地蔵さまといいお不動さまといい、家をお持ちでなかったり小さな社にいらしたり、まったくもって質素な仏さまである。
深川出世不動尊
「神田出世不動尊」
「相撲取りが信心すれば出世する」と言われたお不動さま。元は徳川家の表鬼門除けとして祀られたものだという。
神田駅南口から続く道は出世不動通りと呼ばれ、地元に親しまれている。
「深川出世不動尊」
向かいにある霊巌寺の工事中、近江三井寺の住職の夢に本尊のお不動さまが現れ「手助けをしたいので江戸に連れて行くように」と告げられたことに始まる。出世不動と名付けられて不動寺に安置、その後長専院と不動寺が合併した。
若干、異国のお寺っぽいのは気のせいだろうか?
「中井出世不動尊」
東京で唯一見ることのできる、円空(全国に独特の木彫仏を残した江戸時代の僧)作の仏さま。
ご開帳日は不動明王の縁日、毎月28日。
円空の作る仏さまは、いつも笑っているお顔の仏さまだが、お不動さまを?とちょっと不思議に思っていた。
なんとなんと! 不動明王が笑ってる!両脇の矜羯羅童子と制咤迦童子も。
この「出世」は仏教用語の「出世」なのかなぁ?
銀座出世地蔵尊
「銀座出世地蔵尊」
詳細は別項で。銀座三越の屋上にある三囲神社とともに祈願するとよい。
ちなみにでっかいお地蔵さんを拝んでいる人をみかけるが、あれはレプリカである。(これも御前立ちというのか?)ご本尊はとなりのお堂の中なので、こちらも忘れずにご参拝ください。
余計なことだが、三囲神社は日本橋三越の屋上にもあるが、全国の三越の屋上にあるのだろうか?
前鳥神社
最後に。
東京ではないのだが、神奈川県の平塚に「前鳥(さきとり)神社」というお宮がある。
祭神は「菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)」。
世界遺産にもなっている京都の宇治神社・宇治上神社のご祭神である。日本中を探しても、この神さまを祀っている社はほとんどないに等しい。応神天皇(八幡神)の皇子であるため、宇佐神宮や岩清水八幡宮のそばに祀られているくらいである。
この菟道稚郎子は、日本ではじめて外国の学問を学んだ人として
学問の神さまとして祀られているのだが、この言い伝えから、「正しい道」「良縁」を求める人に道を授けるご利益があると言われている。
もちろん関東では唯一の社である。
京都の宇治神社と同様、結婚や就職、困難に悩む人にとってはこれ以上はない神さまだ。
もちろん「就活守」も用意されている。
加えて「菟」道稚郎子である。
卯年生まれの人にとっては、最高の神さまではあるまいか。