良い音だと思った。 爆竹のような勢いを秘めながら、その実 静かに煙りあがる そのバンドの雰囲気は どこか 自分の 生業に似ていて しかしどこか違った。 


 端的に言うと 惹かれたのだ、その団体と 彼らが紡ぎだす音に。


 中原中也は 行き着いた考えに 笑った。  

今にも 水が落ちてきそうな ほの暗い雲。 地下から湧き出るように見えて 中で機械が動いている、噴水。背景にして アマチュアバンドが 気持ちよさそうに 音楽を奏でる。 さまざまな人に会う仕事をしている中原から見ても ルックスは 中の上 もしくは上物。 音もいい。 

 にわか雨が すぐ通過して 後には何も残さないように 中原はコートを翻した。

 

携帯の振動は仕事の合図。せっかくの休暇が またダメになったようだ。 元同僚だった男が 置いていった 手のかかる部下の顔が浮かんで 鬱屈した気持ちを押しこめるように 足を速めた。