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ある男が電車を乗りついで駅で降りるのは、8時25分という時間だった。

(この路線は、男が勤めはじめてからというもの、ダイアが変わったことがない)

息苦しくなるような地下鉄から階段を上りきり地上に出るのが、8時38分頃。
そして会社までの道のりを歩くのだ。
それは土日を除けば、ほぼ週5日続く彼の日課だった。


ある女は慌てるようにして家を出る。いつも鏡を見すぎてしまうからだ。それはおおよそ8時32分という時間だった。そして駅までの道のりを足早に急ぐのだ。
それは土日を除けば、だいたい週5日続く彼女の日課だった。


ある男とある女が道を歩きながら、たがいにすれ違うのは、広い公園に面した通りを歩く8時43分頃である。


目が合う時もあれば、合わない時もあった。
もちろん二人の間に会話はなく、挨拶すらかわさない。


男は、夏の風に揺れるフレアスカートを着た女の姿を目にしたこともあったし、厚手のコートに身をうずめるようにして歩く姿を見た時もあった。何度か栗色に髪を染めたことも知っている。同じ靴の色違いを履いていることも知っていた。


女は、男の持っているスーツの色が2色しかないこと、黒い革靴が一度だけ茶色のローファーに変わったこと(その後すぐに黒い革靴に戻ったが)、グレーのナイロン製カバンがベージュのなめし皮のカバンに変わりずっとそれを使い続けていること、を知っていた。


二人がすれ違う時には、
公園近くの公共団地、生垣に植えてあるキンモクセイの匂いが辺りにたちこめていたこともあったし、
通りに面した街路樹のイチョウの木から、葉が落ちるというよりはくるくると回りながらアスファルトに降りていくこともあった。
歩道にシャーベット状にはりついた雪の上を、おそるおそる靴で踏みしめながら渡ることもあった。

すれ違いは続いた。
ほぼ週5日。6年もの間。朝が来るたび。

その月日に自覚もないままに。




2010.12.1 polished