──今日のニュースです。
ねぇ、ちょっと。また? また差し替え?
もうそれでいいじゃない。その見出しでいいじゃない。
……もう、どうでもいいことなら伝えたくない。
もう少し気の利いたコメント?
そんなこと求められても言えるわけがない
ただある事実に対して気が利くということが、私にはどういうことなのかずっとわからずにいるのだから。
……そろそろ潮時かもしれないな。
私は顔で選ばれた。
人は私を夜の顔と呼ぶ。夜8時の顔。
前の夜の顔は、飽きられたから。
私は知っているんだ。
やがては例外なく自分も飽きられてしまうことくらい。
いずれは衰えていく容貌を、知識や知恵でカバーしたところで、そんなものはこの場所で必要されていないということ。
いつも求められているのは、若くて無知でありながら美人で従順な子だってことくらい。
人が怒るべき時 冷静さを求められ
人をなぐさめるべきじゃない時 なぐさめを求められる
私はじっと見つめ、語りかける
誰かにつながっているとは思えない
ブラックボックスというカメラの向こう
つながりとよんでいいのかさえわからないカメラの向こう
黒くのたくっている幾本ものケーブルの先につながれているのは
誰かじゃなく 得体の知れない虚無じゃないか
無傷なわけじゃない。ニュースを読みあげるたび。
無傷でいられるわけがない。
……もう、時間?
ふう。ええ、だいじょうぶよ。
ねぇ、髪はねてない? 本当に? OK?
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「8時になりました。それでは今日のニュースをお伝えいたします」
──30歳の誕生日をむかえる前に、アロマテラピーと薬膳料理を本格的に習いはじめようと思い始めている女性ニュースキャスター。