潜水服は蝶の夢を見る(2008) | waldeinsamkeitの木をみて森をみず。

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L’arbre cache souvent la forêt.
本と映画の備忘録。ときどき、禅問答(笑)

アメンバー限定記事は公式ジャンルと全く関係ない超つまんないぼやき内容なので、公開していないだけですσ^_^;ホントにホントにお気になさらずにσ^_^;

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潜水服は蝶の夢を見る(2008)

ファッション誌「エル」の編集長として活躍する人生から一転、

脳梗塞で左目のまぶた以外の自由が

効かなくなってしまった男の

実話を映画化。

原作は主人公のジャン=ドミニック・ボビー自身が

20万回のまばたきでつづった

自伝小説。

『夜になるまえに』のジュリアン・シュナーベルが監督。

主人公は『ミュンヘン』のマチュー・アマルリック。

独特の映像美。


昏睡状態から目覚めたものの、

左目のまぶた以外を動かすことができない

エル誌編集長ジャン=ドミニク・ボビー

(マチュー・アマルリック)

意識ははっきりしているにもかかわらず

言葉を発することができない彼に、

言語療法士のアンリエット(マリ=ジョゼ・クローズ)は

まばたきでコミュニケーションを

取る方法を教える。


ジャン=ドミニック・ボビー
ある日を境に世界が変わってしまった
男の目線でのカメラワークで始まる。
言語療法士と出会い、
言葉を取り戻すまでの時間
恐怖以外の何物でもない。
ゾッとする世界。
ロックトインシンドローム
眼球運動とまばたき以外の
すべての運動機能が麻痺、
だが感覚は正常で意識はしっかりある。
単に意思表示の方法が欠如した状態、
ほとんど完全に「鍵をかけられた状態」
であることからこの命名がされている。
潜水服で海に閉じ込められた男。
自分の意思ははっきりしているのに
身体の自由は効かない。
全編を通して、彼の独白が続く。

左目以外にも麻痺していないもの
ーーー想像力と気力
それに気がつくまで海の底を歩いているような
息苦しい世界が続く。
彼の「移動しない旅の記録」

自分だけの力では行けない世界も
頭の中だけは自由。
過去や情念を行ったりきたり。
恥らうことも許されない拘束された世界を
受け入れるしかないからか
彼が描く欲望は生々しい。
女目線で同情なしで評せば
女性に対する態度は
なかなかのゲスっぷり。
だがしかし
自分を飾ろうとせず、自分に忠実に
思いを書き綴っている姿勢は
クリエイターとして凄いと思う。
目の前に「死」の寸前をみせられたものの恐怖を
私には心から共感することは決してできないが
自分に忠実に生きていこうと思う気持ちは
理解できる。
だからとても瑞々しいのだ。

頭に浮かぶ言葉や思いを頭の中で編集し

物理的な作業としての20万回のまばたきで
彼が選んだ言葉は絶望ではなく
想像力だった。
そこに気持ちを揺さぶられる。

デュマの「モンテ・クリスト伯」を愛した
ジャン=ドゥ
皮肉にもエドモン・ダンテスのように
肉体の中にとらわれの身となる。
モンテ・クリスト伯をなぞるジャン=ドゥ
この件も堪える。


原作は、彼の現実を考えると
彼の思いの一端でしかない。
とてもとても生き地獄なのに。
本に残るクリエイターとして生きる姿
彼はプロだったんだな。

マチュー・アマルリックという役者は

どんな器にも注ぎこめる水のようで国籍不明の魅力がある。

「チキンとプラム」「グランドブタペストホテル」

「毛皮のヴィーナス」くらいしか

観た事がないが

悪目立ちせず、印象強い。


この映画が美しい分

ある日を境に世界が変わってしまった男の痛みが伝わってきて

悲しい。


★★★★★