くそ、やっぱり朝のホッケは痛んでたか。

ギュルギュルと今にも何かを生み出してしまいそうなお腹を抱え、学校での用事を終えた僕はサークルの溜まり場へ向かっていた。

今日は日曜日。

「誰か居るかも知れない。」
なんて淡い期待を寄せつつ行ってみるも、やはり誰もいない。

今日は天下の日曜日、猫も杓子も閻魔様もキリスト様もお休みだよなぁ。

しょうがないので溜まり場のベンチに腰を下ろす。

それにしても暑いな。

いくら夏休み前だからってこんなに暑いのはおかしくないか?

家を出てから5リットル以上汗をかいている気がする。

右手にはガリガリ君、左手は携帯でmixiをチェックしている。

自分以外誰もいない学校に携帯を打つ音がニチニチと響いた。

すると遠くに人の気配がした。

どうせ警備員だろうと思い無視してそのまま携帯の画面を見続けた。

無能の日記は面白いなあ、どうやったらこんな日記を書けr

その時だった。

「お兄ちゃーん!!!」

え。

何故か妹の声がする。

慌てて声のする方に顔を向けると妹のミー……とミコ姉とミノリさん!?!?

瞬間「サクッ」と小気味良い音がして、僕のガリガリ君は蟻達の餌になってしまった。

チクショウ、3分の1くらいしか食べていなかったのに。

それはともかくなんでここに3人が居るのだろう。

そんな俺の疑問を瞬時に汲み取ったかの如くミーが両手を広げて言った。

「今から海行こうよ!海!!」

元気ハツラツでよろしい。

疑問の答えには、なっていないが大方想像はついた。

そうか、わざわざ学校まで迎えに来てくれたのか。

ここまで来るのは家から電車で1時間以上、それプラス駅からバスで20分程かかる。

長い道のりをまぁ…って待てよ、もしかしたらミノリさんの車で来たのかもしれないnうわ、ちょっt。

「あくろー!会いたかったよー!」

そう言いながら抱きついてきたのはミコ姉だ。

挨拶と同時に抱きついてくるのは毎度のことなので馴れてはいたが、今日は尋常じゃない程暑い。

いくら彼女の腕が細くても暑いものは暑い。

ちょ、ちょっとミコ姉、暑いよ、離れておくれ。

「んもー、姉弟の軽いスキンシップじゃないのー。」

無理矢理引き剥がしたミコ姉が顔をしかめた。

「お姉ちゃんのコト嫌いになっちゃったの?」

好きとか嫌いとかじゃなくて暑いもんは暑いんだよ。

「うー、あくろがもう私のコト好きじゃないって、ミノリ…」

なんて面倒臭い展開なんだ。

こうなるとミコ姉は長い。

ミコ姉が下を向いたまま、よっかかっているミノリさんの顔は予想通り、苦笑いだった。

すみません、姉の機嫌を損ねてしまったようで。

いやいや、あくろ君は悪くないって、よくあるコトだし、後は僕に任せて。

いわゆる"アイコンタクト"ってヤツでミノリさんと会話する。

もう数年間も同じようなコトが続いていれば言葉を交わさなくともお互いに理解し合えるものさ。

ところでミー、突然海に行くなんて誰が言い出したんだよ。

「あー、なんかね、ミイナ姉さんが急に言い出したんだよね。」

ミイナ、ミコ姉の妹であり僕の2つ下の妹だ。

もちろんミイナもミコ姉と一緒で実の兄妹ではないが。

ん、そういえばミイナってどこに居るんだろう。

「ミイナ姉さんは暑いからって車の中で休んでるよー。」

クーラーの利いた車の中、今の僕に必要なものは全てそこに揃っているはずだ。

一刻も早く移動しよう。

ミコ姉、ごめん。

「もう嫌いとか言わない?」

うん、言わないよ。(嫌いとは言ってないけど。)

「じゃあ私のコト好き?」

うん、スキスキ、もうビックリするくらい。

「じゃあそれでいいや♪」

じゃあそれでって…まぁ機嫌も直してくれたみたいだし早く移動しよう。移動。

灼熱の炎天下の中、車まで移動している3人の後ろを歩いていると、蝉が1匹目の前で息絶えた。

車のある場所まではしばらく歩く。

それにしても暑いな。

腕で汗を拭うと、さっき落としたガリガリ君の匂いとミコ姉の髪の匂いがした。