「やっぱり、私にステージは向いてなかったのかも」
そういう彼女は否定してくれるのを求めてるのかもしれない。
そして、歌手である自分自身を肯定して欲しいのかもしれない。
彼女がそんなことを思うのも無理はない。
なんせまだ彼女は高校生。
しかも、人前に立った経験は無し。極度のあがり症。そして、極度の人見知りである。
そんな彼女が自分を変えたいという理由だけで受けたオーディションがなんとまぁ一発合格。
そして、ファーストシングルはなんとまぁオリコンランキング初登場で1位を取ってしまうのだから
彼女にかかるプレッシャーは物凄い大きい。
そんな子が僕の彼女なんだから周りの批判が本当に多い。
「急にどうしたの?」
僕はそんな言葉しか返すことができない。
本当に無力だ。
「皆、私の歌が凄いって言ってくれるけど。
それは私の声?
それとも私?」
…歌手ならではの思いだろうか。
だけど、僕はそんなの分かりやしない。
彼女だってその事は分かってるのに。
だけど、僕しか頼る人がいない。
そんな人間がこんなに無力。
なんなんだ全く…
「作られた曲の中で。
作られた詞の中で。
作られた感情で。
何もかもが作られたものばかりの中で。
一体何がすごいっていうの?」
「…伝え方。じゃないかな?」
ありきたりな言葉しか返せない。
これも作られたモノ?
「…やっぱり、キミって凄いね。
私が惚れるわけだ。
…私がもし消えたとしたら。
皆の中に残るのは、
私の声?
私の思い?
それとも…作られただけの無機質な詞?」
「君の声で、君の思いを綴った。
君の詞が。皆の心に届くんじゃないかな?
消えたことがないから分かんないけどね。」
「…キミに相談してよかった気がしたよ。」
「そう?」
「だけどね。
歌手ってカバーもできるの。
つまり私が私でなくてもいいの。」
「僕は、君じゃなきゃ嫌だ。」
「…ありがと。これからもがんばれる気がするよ」
それから彼女は今まで悩んでたのが嘘のように明るくなった。
代わりに僕の気持ちがどんどん沈んでいくのを
彼女はまだ知らない。
彼女が歌う水面下で
僕が彼女の熱烈なファンに虐められていることなど
誰も知りはしない。
彼女は日が経つにつれてだんだんやつれていく僕の身体を見て言う。
「もうそろそろだね。」
…もうそろそろ?
どういうことなの?
「私と関係が近くなった人間ってだんだん死んでいくの。
そのせいで私、影で『死神』だなんて呼ばれてるのよ?知らなかった?」
…死神?
あぁそうか…
さっきから僕の首元にある冷たい感触は
…僕を…
彼の死は
瞬く間に世間に広まり
彼女は公衆の面前で死刑になった。
彼女が最期に残した詞がある。
この想い
届かぬ物と
知りつつも
期待を込めて
ただただ唄う
この詞の本当の意味を知る者は
もう誰もいない
