卒業論文について | 慶應通信で実学を学ぶ

慶應通信で実学を学ぶ

【第78期】2024年4月に文学部1類に入学しました。学びに終わりはありません。


神戸慶友会 『社中協力』創刊号より

 

 慶應義塾大学通信課程で学位を取るには卒業論文を提出した上で卒業試験に合格しなければなりません。中央大学法学部の通信課程は司法試験合格者を出しているレベルの高さを誇っていますが、卒業要件としていた卒業論文の提出を廃止しました。卒業論文の制作は学生にも指導教員にも大きな負担となっていることが窺えます。慶應通信では全ての学部で卒業論文の提出を課していることから学位付与の条件として高い学術水準を求めていることが分かります。

 

 学術論文とはどのようなものでしょうか。そもそも誰も反対しないことを意見として主張するものは論文として成り立ちません。自分がリサーチしたものを正確に丁寧に10万字にまとめた傑作であったとしても「これはレポートで君が書くべきことは最後の数行のところだけ」とダメ出しされるかもしれません。東大の上野千鶴子教授は15分間の論文の説明を聞いた後「で、この論文の新発見は?」と一刀両断したという話は有名です。また論文のオリジナリティは重要ですが、客観性に基づかない主観に満ちた独りよがりな主張や理論も学術論文としては無益なものとなります。

 

 では客観的に論じるための重要なポイントとは何でしょうか。その1つは先行論文ではないでしょうか。先行論文に数多く当たり、適切な論点、論考を抽出することができれば、筆者の思考の幅は広がり、バランスの取れた立論が可能になります。指導教員は学生の論文を読まなくても目次と文献表を見ただけでその論文の評価ができるそうです。

 

 「巨人の肩に立つ」という言葉があります。偉大な先人の業績を巨人にたとえて、現在の研究の新たな知見や視座を先人の業績の上に積み上げることで知の創造に貢献しようとする姿勢を意味しています。学部で書く卒業論文はそこまで高いレベルが求められるものではありません。ただ筆者の問題意識から発せられた問いに対する仮説の設定とその論証という論文の体裁が整えられるまで論文指導は続きます。卒論8単位までの116単位は卒業論文を書き上げるための準備期間ともいえるのです。



卒論指導に向かう道(旧図書館の改修前)。