「公正と自由」
欲望の『奪い合い』から幸福の『分かち合い』へと財政を変える
慶應義塾大学 井手英策教授(財政社会学)の講演に参加して
11月23日「勤労感謝の日」に慶應義塾大学経済学部、井手英策教授(財政社会学)の講演を聴く機会に恵まれました。以下はその要旨です。
財政社会学の井手英策教授は日本社会の変化を象徴するものとして、7月26日に神奈川県相模原市の障がい者施設で19人が殺害された事件を挙げた。そこには強者が弱者を支配するのではなく、社会的弱者がさらなる弱者を虐待する構図が透けて見える。また小田原市では、生活保護業務を担当する職員らが「保護なめんなよ」のローマ字表記をあしらったお揃いのジャンパーを身につけて業務を行なっていたことも発覚した。これについては正規に受給する生活保護受給者を威圧するものだという批判が市民から殺到したが、その一方で「不正受給は許されないので当然」と擁護する意見も多く見られた。後者には「自分たちがこれほど苦しい思いで働いているのに働かずして収入を得ることに憤りを感じる」という感情が渦巻いているという。(実際の不正受給者は0.5%にすぎない)
このような風潮がはびこる原因について井手教授は、世帯収入がこの20年で2割近く低下し、世帯収入が400万円未満の世帯が全体の47%を占めるようになった現実を示し、貧困が覆う今の状況と将来への不安が「誰かが困っている社会」から「誰もが不安に怯える社会」へ変化していることを指摘する。
ところが政治家は、貧困を生み出す原因は長期にわたるデフレからくる景気の低迷であるとして、あらゆる経済政策を駆使してかつて日本が歩んできた経済成長率を実現させることが日本経済を救う唯一の方法だと信じてやまない。だが異次元緩和を謳うアベノミクス効果による経済成長率はたかだか1.1%だ。政府、日銀の出口戦略が見えない中、それでも現政権が高い支持率を維持しているのは、それ以上の効果のある経済政策を打ち出せる政権がないことに国民は気づいているからである。
人口減少の局面にあっては、「共通ニーズ+個別ニーズ+顕示的消費」を貨幣で満たす「経済の時代」は終焉を迎え、従来の成長モデルは適合しない。私たちが目指すべきは「経済の共有化」であり、「家族の原理」を主体とする互酬と再分配の組み換えである。それが市民を分断する社会的、経済的バリアを破壊する。人類の歴史において社会的危機の時代にあらわれるのが「家族」の原理なのである。
高い成長が望めない今、既得権をなくすという逆転の発想が必要である。低所得者から高所得者まで均等の課税を行うことで最貧困層の最終的な生活水準を向上させ、格差を半分にすることが可能となる。その理念は、不安な時に痛みと喜びを分かち合う「頼り合える社会」の実現にある。その方法が「税で未来の安心を買う」ことなのだ。
例えば消費税7%に匹敵する20兆円の大増税を行う(その負担率は英・独並)。その半分の10兆円でプライマリーバランスの赤字はゼロになる。残り10兆円で保育・幼稚園(8千億)、大学授業料(3兆)、医療(4.8兆)・介護(8千億)、障がい者福祉(数百億)が賄える。
なぜ消費税が有効なのか。富裕層を対象にした課税では200億円にしかならない。金融所得課税5%で2~3,000億円、相続税率5%引き上げでも5千億円程度にしかならない。それに対して消費税1%=2.8兆円。消費税3.5%引き上げで自己負担をなくせる。これが「税の破壊力」。これからは税の組合せと使途を競い合う政治に転換させなければならない。自分たちの納税が何に使われているか無頓着でいいのか。「政府は信じられない」に終止符を打たなければならない。「できない理由」を考えるのではなく、「どうすればできるか」を考えることが政治家と有権者の次世代への責任であることを自覚せよ。
25年間で8.5%のGDPが減少した結果、格差を示す「ジニ係数」は3ポイント悪化した。そのことは「反貧困対策」だけでは不十分で、貧困層ではなく下位40%への対策が重要であることを示す。それが実施できれば結果的に格差が縮小でき、成長力を強め、財政を再建できる。具体的には、前述した医療扶助、教育扶助、介護扶助などの自己負担を減らし、尊厳ある生活保障を目指す。ベーシックインカムには問題がある。勤労義務との関わり、給付金額が分かってしまう、給付金が貯蓄に回る、社会の分断が生まれるリスク等が考えられる。それよりも全員に必要とされるサービスを提供するほうが合理的。
生活扶助は人間の最後の自由の砦。子どもがどんな環境に生まれても生きる価値のある温かい家族のような社会を実現しよう。私の主張は私的所有権を否定する社会主義ではない。目指すのは、お互いが求め、求められる社会、頼り、頼られる社会であり、落とし穴のない社会だ。それは、勤労と倹約の美徳、自己責任を超える新しい社会の姿である。
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