すでに終了してしまった展覧会を紹介するのは気が引けるのですが、今回ご紹介するのは資生堂ギャラリーで開催されていた「菅実花展 仮想の嘘か|かそうのうそか」です。

 菅さんは生殖をテーマに、人形を写真にとる作品で「人間とは何かを」を探求してきたそうです。


 本展ではご本人の頭部をそっくり型取りしたマネキン人形といっしょに撮影したセルフ・ポートレート「あなたを離さない」が展示されています。

 その作品を観ると、どちらが本人でどちらが人形なのか、ぱっと見わかりません。さらに作品によっては鏡やレンチキュラーレンズによって分身が増やされており、さらに混乱します。



 またこの作品にように、本人が人形の絵を描いている写真を撮っています。つまり写真を撮っている本人も含めると、4人の菅さんが存在していることになります。それは不思議な、しかし恐ろしく魅力的なセルフ・ポートレートです。



 スペースの片隅には、写真を撮影したとおぼしきアトリエが再現されているのですが、そこには本人の姿も、人形の姿もありません。ご丁寧にスタンドに立て架けられたキャンバスは真っ黒に塗りつぶされています。


 さらにこのアトリエを覗くボックスは半透明のスクリーンになっていて、そこに菅さんの画像が映し出されてます。画像は何かをを訴えるかのように、問いかけるようにこちらを見つめていますが、フッと消えていなくなります。

 よく見ていると顔の画像にワイヤーフレームが重なります。もしかしてこの映像はご本人のビデオではなく、CGなのでしょうか。

 そもそも菅実花という人間は実在しているのでしょうか?すべて人形やCGではないと言い切れるのでしょうか。あるいはドッペルゲンガーなのかもしれません。

 写真のタイトル「あなたを離さない」は、カズオ・イシグロの小説「わたしを離さないで」にインスパイアされています。この小説もクローンを扱った小説でした。

 クローンは果たして人間なのか、そうでないのか。菅さんの作品に映る人影は、どれが人間なのか、そうではないのか。謎がぐるぐるとまわるような展覧会でした。
211115