人生は短いから・・・ | INDIGO DREAMING

人生は短いから・・・

ある日、ヨーロッパのお金持ちから彼のもとに仕事の打診が来た。
超~お久しぶりの仕事の話だ!

聞くと、そのお金持ちは最近コレクションの盗難にあったらしい
そこで自分のコレクションを銀行の金庫に預けることにした
けれども時々手に取って鑑賞する楽しみがなくなってしまうのはまことに辛い
ついてはそのためのレプリカを作ってくれないだろうか

という話だった

E-MAILに添付されて来た骨董品の写真はなーんかサザビーとかのカタログとかで見かけたことがあるような・・・
この人のコレクションだったのか?
とにかく本物はかなり高額なものだ

作品のオリジナリティーにいつもこだわっている彼が引き受けるとは思えなかった

でも、彼はのどから手がでるほど仕事に飢えていたのだ
真剣に悩んだ末に彼は言った

「練習も兼ねて引き受けてみようかと思うんだけど・・・どう思う?」


ああああああ~っ
それほどまでに追いつめられていたのか・・・・
妥協はぜったいしないと思っていたこの人が・・・・


「それは、あんたが本当にしたい仕事ではないでしょう?
考えても見てよ。
盗難の備えのためのレプリカだよ。
つまり、また盗難される可能性があるってことだよ。
その人が持っている間はいいけど、いったんそれが外に出ちゃって
どっかのオークションに出されてしまったらどうするの?

どっかで偽物として出回ってしまって作ったのがあんただってわかったら
あんたの評判ガタ落ちになるじゃないの!」

全然収入がなくて焦る気持ちはもちろん痛いほどわかってる
背に腹はかえられないって気持ちになるのも当然だよね

でも、足もと見られてるんだよ、あんた
悔しいじゃないの
そこで妥協されたら
私、何のために働いてるのかわからなくなっちゃうじゃない!


「哀しいよね。同じ金額で僕のオリジナル作品が買えるのに。
それよりもレプリカがいいのか・・・」
寂しそうに彼はつぶやいた

本当にそう。彼にとってはすごい侮辱だ。
同じ値段で買える彼のオリジナル作品に価値を見いだせないなんて・・・
可哀相なお金持ちだ

結論を出した彼はこう返信した。
「僕は自分自身のアイディアを表現するために制作しています。
他人のアイディアを模倣するために費やすには人生はあまりにも短い。
せっかくのお話ですが、断らせていただきます。」

武士は食わねど高楊枝 
ごめんよ、私の侍根性押し付けて・・・

でも、あんたは職人である前にアーティストでありたいんでしょう。

だから、断ってすっきりしたよね

さらば3000ドル

著者: 増井 武士
タイトル: 迷う心の「整理学」―心をそっと置いといて