ドキュメンタリーは真実か? | INDIGO DREAMING

ドキュメンタリーは真実か?

日本の伝統美を追求する外国人がいるというのでテレビ局が彼のもとに取材に来た。
新婚ほやほや当時、まだ日本に住んでいた頃の話である。

ニュースの後、朝ドラの前の地域版トピックスで彼の活動と作品が放映されちゃうのだ。
たかだか6分間のドキュメンタリーといっても撮影は1日がかりである。

「作品の説明は英語でもいいですか?」
「いや、できれば日本語でお願いします」

彼は紙に書いた日本語の説明をつっかからずに言えるように何度も何度も一生懸命に練習した。
撮影当日、練習の成果なく緊張でつっかかりまくる彼。

あきらめたクルー陣
「あ~、やっぱり、英語でいいです。英語で説明して下さい。」
(早く言ってやれよ。可哀相に。)

あとは一緒に町を歩いているとシーンとか、
彼のお気に入りの寺の山門彫刻を眺めているシーンとか、
一緒にごはんを食べているシーンとか
を撮影したわけだ。

テーブルに食事を並べようとすると

「あっ、こっちのこたつの方が雰囲気が出るな。
こっちに移して座って食事してくれませんか?」

(おいおい、これはやらせとは言わないのか?)

「じゃ、カメラ回しますので、そこでちょっと和やかに雑談して下さい」

はいよ、はいよ

「じゃ、ちょっと奥様にも質問しますので」

ここで私はぱきぱきとしゃべったわけだな。
インタビューでの彼の受け答えがあまりにも(英語でさえも)自信なさそーに貧弱だったもんだから、つい彼の分まで頑張ってしまったわけだ。

若気の至りである。

彼が「今は彼女の収入で暮らしているけれど、早く自分で生計を立てられるようになりたい」
な~んて言うから

「妥協しないで後世に残るような素晴らしい作品作りに専念して欲しい」
と理解ある妻ぶりをアピールしていたのだ。

さて、放送当日。
ほがらかなBGMに乗って彼の作品が一つずつ紹介され、彼の略歴や私たちの生活の様子が映し出された。
スクリーンで私の顔がアップになる。

「いやー、彼と会うまで何も知らなかったんです。彼の方が詳しいのでいつも日本のこと教えられてます。」

あの~、この一言だけ?
これじゃあ、バカ丸出しじゃん。
あんなにいっぱい喋ったのに、ちょっとおまけに付け足したこの言葉だけわざわざ切り取って使うか?

ドキュメンタリーとはこういうものである。

編集者にはすでに作りたいイメージというものがあって、それに合う材料だけが選ばれる。
ここでは「外国人なのに日本通」というイメージが際立つ材料だけ欲しかったわけで、それ以外は全部ゴミだったのだ。

ドキュメンタリーをまるごと信じてはいけない。


余談ではあるが、あれから9年。
彼が生計を立てられるようになる気配は・・・今のところない。


著者: 草野 厚
タイトル: テレビ報道の正しい見方