昨年8月から1年間、ほぼ毎日コラムをアップした。中身は新聞社在職中に書いたもののリニューアル。初出から20年が経過したものばかりで、読んでいただいた方にはいささか申し訳なく思っている。新聞社時代の自筆コラムは3500本ほどあって、うち最初期から選んだ365本は「コラム選集一日一言(1994〜1997)」(四国新聞社刊)に収められたが、予定していた第2巻が沙汰止みとなったため、データベースがスタートするまでの数年分についてはどこにも公開されてない。ここにはその間の一千数百本の中から証言の貴重なものを選んで加筆した。驚いたのは20年も前なのに、そのまま現代に当てはまるものが多かったことだ。それほどに日本は進化していないのか、それとも進歩や進化などはハナから幻想だったのかー。それはともかく、取材に応じていただいた方の貴重な証言を半永久的に公開できたことを心から喜んでいる。ということで蔵出しコラムは今日で手仕舞い。さあ、明日からは書き下ろしでなんでも書くぞ。って本当かなあ。怠け者だからなあ。タイトルも変えようかな。だって風なんかちっとも吹いて来ないんだもの。次のタイトルは「風もないのに」だ。ご愛読、ありがとうございました。これにて打ち止め。

 

スノウカウンティー(1994/08/11初出)

 街が帰省客でにぎわい始めている。生まれ故郷に帰って来る人を「客」と呼ぶのは奇妙だ。俳句には「帰省子」という夏の季語がある。その彼らのひとみに故郷の今はどんな風に映るだろう▲先日、女子の就職難について「東京がダメなら故郷がある」「みんなが帰れば地方分散社会は夢じゃない」と書いたら、四国学院大学で経済学を教える土井省悟教授から長い手紙をいただいた。「大賛成」と言ってくれた▲同時に教授は毎年、学生の就職活動を助けながら感じるいくつかの悩みを教えてくれた。育てた人材を生かす「受けざら」がない。みんなが生き生き働ける「故郷」がない。現実の悩みはいかにも深い▲同封の論文「大学生の流動実態からみた四国」はいわば「人材の収支決算報告書」。それによると九〇年度は香川の大学進学者の五五%が県外に進学。過去八年間の累計は約一万八千人。うち二〇%が東京圏、二五%が大阪圏に出た。その多くはやがて県外で働く▲人材を地元で育てるため教授は「スノカウンティー構想」を提案する。正式には「四国ノン・キャンパス・オープン・ユニバーシティー」。四国全域をキャンパスに国籍、老若、言語を問わず、学びたい人が学びたい所で学べる夢の大学構想だ▲「東京」に代表される大都市に学ばずとも、地域の中で高度な学問を身に付け、地域とともに実践し、成長する。そんな夢を早く形にしたいと教授は願う。人材輩出県からの脱却こそ地方のあるべき姿だ▲なぜ「故郷」を離れたか。なぜ「東京」を目指したか。帰省子への問いは自分への問い。なぜ故郷に帰ったか。答えは簡単、「この街が好き」。嫌いなところは自分で変える。不足なところは自分で補う。好きならできる。