左遷を楽しむ、なんてタイトルの本を出版したくらいだから、もう名前は書いてもいいに違いない。救国の英雄の名前は片桐幸雄さん。結局、ミスター道路とあだ名された藤井総裁は解任され、道路公団が起こした損害賠償請求訴訟も取り下げられた。蜂の一刺しが奏功した珍しい例。取材する機会に恵まれなかったのは残念だった。


救国の反逆者K(2003/08/08初出)

 会いたい人がいる。会って話を聞きたい。芸能人ではないがマスコミ注目度は高い。日本道路公団四国支社調査役のKさん。記者の中には張り込む者もいたが、まだ成功していない▲うわさ話も含めてまとめれば、Kさんは小泉首相が進める道路関係四公団民営化の公団内改革派の中心的人物で、昨年からは民営化推進委員会の事務局次長として腕をふるい、「八人目の委員」とも言われていたらしい▲ところが世上を驚かせた「鉄屋と鉄道屋」のバトルで推進委が大揺れして、組織内の締め付けがあからさまとなり、ついに今年六月、他の関係者もろとも左遷され、四国支社副支社長に転任、「四国に流された」らしい▲ここは流刑地かと笑ったが、保元の乱に敗れた崇徳上皇の史実もあるから、まあいいだろう。数年前には高松支社長に転任を命じられて自殺した人もいた。しかしKさんは落胆せずに反撃に出た▲月刊誌「文芸春秋」七月号に民営化阻止をもくろむ公団批判を寄稿し、頭目である藤井治芳総裁を「亡国の総裁」と呼んで小泉首相に更迭を要求。同時に六千数百億円にのぼる債務超過の財務諸表隠ぺい工作も暴露した▲さあ大騒ぎ。公団も国会もマスコミも隠ぺい疑惑を巡って大騒ぎ。怒った総裁は左遷では気が収まらず、さらにKさんを降格したから、「亡国の総裁vs救国の反逆者」の図式がますます定着した▲騒動はさておき、そんな遠島に巨大橋を三本も架けて大赤字を積み上げ「お前も払え」と言われても承服しかねる。ただしそのバカ高い通行料のお陰で安価で美味な讃岐うどんが守られた。もし会えたらKさんにうどんの秘密を話してあげたい。