尼寺へ行け、ではないが、政治を志すならぜひ広島へ行こう。いや日本人は全員、ヒロシマとナガサキを知るべきだ。

 

ヒロシマへ行け(2003/08/07初出)

 ヒロシマへ行こう。どうしても核武装したいなら、もう一度ヒロシマヘ行こう。悲しみを素通りした人はナガサキにも行こう。その街にも焼けただれた日本の歴史が記録されている▲広島への原爆投下から五十八回目の平和祈念の日、高松でも犠牲者の追悼式が行われた。昨日までに亡くなった県関係被災者は合わせて五百六十四人。二つの街のピカドンで死んだ人は二十万人▲二十万という途方もない数を指折り数えられない人間には、それは悲しみの数ではなく、ただの数字でしかなくなるようだ。ましてや五十八年もの時間が流れてしまえば、「とてもたくさん死んだ」としか言えなくなる▲そんな時代に海の向こうから「核武装」の声が掛かる。「エノラ・ゲイ」と「ボックスカー」のB29二機に原爆リトルボーイとファットマンを積み込み、日本の二つの街を消滅させた国から核武装容認論のエールが届く▲核開発に突き進む北朝鮮の独裁者を脅しとどめるために被爆国ニッポンに原爆を持たせてくれるという。海をはさんだ二つの国が核兵器を手ににらみあう事態をその国は望んでいる。愚かにもそれを喜ぶ人が日本にいる▲いまだ見つからない大量破壊兵器を理由にイラクを攻め滅ぼしたその国は、地球を何百回も破滅させるほどの核兵器を持ちあぐねている。その国では人口と同じ数の二億六千万丁の銃があふれ、毎日、射殺事件が起きる▲武装すればするほど危険は増す。それが分からない大統領にはヒロシマ行きの切符を送ろう。資料館で一日を過ごしてもらおう。折り重なる死の写真を見てもらおう。二十万の名前を読み上げてもらおう。