東京五輪まっただ中。ドレッドヘアにピアスに派手なパンツの少年少女が続々と金メダルを獲得して、いつもなら眉を顰める大人たちを喜ばせている。他にもたくさんのすったもんだが噴き出してくるオリンピックにはいつもながら苦笑してしまうが、20年前にも価値観の断絶が世間を騒がしていた。その時は71歳が24歳を排除してしまったが、それから思うと現代は進歩なのか、もしかしたら拝金主義の勝利なのかも知れない。

 

フジヤマのすずとトビウオ(2000/08/04初出)

 それは「あの戦争」をはさんだ二つの世代の闘いに見えた。「お国のため」が当たり前だった昭和ヒトケタ世代と、そんな体験などひとかけらもない二十四歳の衝突。国際社会の判定は微妙なものだった▲シドニー五輪競泳の代表選考をめぐる、千葉すず選手と日本水泳連盟(古橋広之進会長)の争いが決着した。スイスからきたスポーツ仲裁裁判所(CAS)は「不公正はないが、選考基準を適切に示していない」と裁定した▲結局、彼女の五輪出場はかなわなかった。しかし日本水連は選考基準の「説明不足」を理由に一万スイスフラン(約六十五万円)を千葉選手に支払うことになった。CASへの提訴などにかかった費用の弁済という趣旨だ▲彼女の望みはお金ではないから、負けたのは彼女。しかし一方で彼女が批判した水連の「説明不足」は認められた。つまり訴えられるだけの落ち度があったと認められた。この裁定の意味を水連は理解しただろうか▲五輪出場の標準記録を突破し、選考大会で一位になり、しかも出場枠三十人に九人も空きがあるという状況では、なぜ彼女が落選したのか理解しにくい。「世界の強豪と互角に戦えない」という理由では不十分だろう▲本当の理由は、前回アトランタで日本競泳陣が惨敗した時の責任論だと言われている。彼女は期待されながらメダルを取れなかった。指導陣は消沈したが、それをしり目に彼女は「オリンピックは楽しむもの」と言い放って激しく批判された▲かつて「フジヤマのトビウオ」と異名をとった古橋会長も実はメダルを期待されながらヘルシンキ五輪で惨敗した。その時、会長は「私を責めて下さい」という手記を新聞で発表した。そんな七十一歳の元エースには「すずスマイル」の奔放さが許せない、と見る人は多い。ああ日本。