村長の息子は村長(1999/08/03初出)

 「村長の家に生まれたから村長になるのが当たり前なんて変ですよね。あの子、勉強なんか、ちっともできなかったのに…。小さな村だったから、みんな自由にものが言えなくて。村長はずーっと村長」▲愛媛出身の女子大生から話を聞いたのは数年前のことだ。地域が小さければ対立は敬遠され、議員も自治会が候補者調整して選挙もなし。一番許せないのは同級生だった村長の息子が「次の村長」という話だったらしい▲こんな話は県内でも珍しくない。その結果、無投票が続き、多選議員や多選首長がごろごろ登場して何か新しいことをやろうにも、どうにもならない八方ふさがりになる。「一体どこが民主主義なの?」と彼女は嘆いた▲無投票、多選の増加がそのまま民主主義の衰弱を示すものではないが、同じ人物が何十年にもわたって権力の座にいれば、腐敗を生みやすいことは歴史が証明している。しかし立候補は自由だから制限はできない|というのがこれまでの常識だ▲この多選問題に自治省が初めて一石を投じて注目されている。同省の調査研究会がこのほど「立候補の自由は権利であるとともに公共の福祉と密接な関係があり、必要最小限の制約は憲法上も立法政策上も十分考慮されてよい」と報告した▲ずいぶん遠回しだが、要するに立候補制限の可能性を初めて認めたといえる。多選禁止は国会でも過去三回、法案が提出されたがいずれも廃案。自治省もこれまでは公選法に抵触との姿勢をとっていた▲多選や無投票の原因は本来、有権者の側にあるから、それを法律や条例で縛ることこそ非民主的だと批判もある。人材不足の心配もある。しかし多選禁止なら後継者育成も首長の要件だから大丈夫。実現すれば彼女のような若者たちが故郷で立候補するかもしれない。