金完燮さんが今、どんな状況にあるのか、気にかけている人がたくさんいるという。韓国政府はこのあと、次々に彼の言動を抑圧する措置をとり続け、2016年ごろからはパスポートを更新せず事実上の出国禁止状態に押し込めているらしい。日本ではいくら強権の管政権でもそんなことはできない。それだけでも日本と韓国の言論の自由には大きな違いがあることがわかる。あまり気の進まない表現だが、自分の親兄弟や先祖に不当な罵詈雑言を浴びせ続けるそんな国で生まれたメロドラマやポップミュージックに夢中になる子女が多いという。その精神構造はどうなっているのか、不思議でならない。拉致被害者の救出も大事だが、金完燮さん救出の方がより緊急ではないのか。

 

日韓の熱い夏(2002/07/30初出)

 暑い熱い夏がきた。毎年、この季節になると、日本の過去の戦争を懺悔する人々とその正当化を試みる人々の間で激しい議論がかわされる。今年は韓国から新しい激論の種が届いた▲韓国で昨年、有害図書指定を受けた作家、金完燮(キム・ワンソプ)さんの「親日派のための弁明」が先日、日本で発売され注目を集めている。金さんは事実上の発禁に続き、名誉き損で告発されて現在は出国禁止状態だ▲金さんは一九九五年に「娼婦論」でベストセラー作家となった。韓国史だけでなく、アジア、世界の歴史研究を土台に繰り出す現代批評の斬新さは韓国内でも高く評価されている。いったい彼のどこが「有害」だったのか▲彼は日本の韓国併合とその戦争を植民地化や侵略とはとらえず、国内の特権階級打破と同時に、欧米の植民地化を免れ、近代化を実現するために不可欠な過程だったとする新しい認識を提出した▲これが韓国内の主流派を怒らせた。戦後韓国では加害者は日本、被害者は韓国、欧米は解放者の位置付けが定着している。彼はこれに真っ向から反対して、当時の韓国は日本の朝鮮半島統治を積極的に選んだと主張した▲当時の韓国は植民地ではなく、日本そのものであり、だからこそ日本は国家予算の20%もの巨費を投じて朝鮮近代化を進めた。「大東亜共栄圏」構想はアジアを欧米支配から守るためのものであり、今も必要だ|という▲日本は奴隷状態だったアジアに独立の勇気を与えた。もし日本に罪があるなら「戦争に負けたことだ」と彼は言う。いずれにしろアジアがいまだに欧米支配から脱していないことだけは間違いない。