そんなこと言ってるから貧乏なんでしょ、って言われるとぐうの音も出ないけど、金に追われる金持ちにはなったことがないから、それが本当に楽しいのか苦しいのか、実はそれもわからない。しかし大学の授業で「崇めよ」と教えられたドラッカー先生がそんなことしてたら人類は破滅するぞ、というのでやっぱり私の貧乏には正しい理由があったのだと納得している。で、21世紀の社会はNPOが支えるっていうから、ちょっと頑張って見たけど、特定非営利ってけっこう大変。早く誰かに受け継いでもらって楽隠居するには、やっぱ、「金じゃないぞ人生は」と言うしかない。そうだぞ。若者よ。

 

金じゃないぞ人生は(2002/07/09初出)

 「人間として生きる意味は資本主義の金銭的計算では表せない。金銭などという近視眼的な考えが生活と人生の全局面を支配することがあってはならない」。宗教家の言葉ではない▲P・F・ドラッカーの新著を読んでいる。歴史が見たことのない未来が始まる|とうたった「ネクスト・ソサエティ」(ダイヤモンド社)。ドラッカーを読むのはたぶん三十年ぶり。九十歳を超えてなお慧眼は衰えない▲自由市場主義者として戦後の米国企業に大きな影響を与え、今も与え続ける思想家として彼を超える存在はない。日本でも彼に共鳴し、彼の指し示す新しい社会を目標とした経営者は少なくない▲その未来予測は次なる変化をいつも魔法の鏡のように描き出した。一九九八年のインタビューで彼は資本主義社会に警告していた。「所得格差を二十倍以上にするな。あまりの不平等が絶望を招き、憤りがまん延する」▲新世紀の米国は予言通り、テロ、不祥事、戦争の恐怖の中で停滞し始めている。さらに深刻な問題は労働者の半数が六十五歳以上という歴史上経験のない社会の出現だ。「ネクスト・ソサエティ」はすでに始まっている▲グローバル経済の出現とそれに対応できない現代国家と金融、経済制度。大切なのは社会か経済かとの問いにドラッカーは「社会だ」と明快に答え、新しい社会はNPOが支えると断言している▲日本では「特定非営利団体」。政府でも企業でもなく、しかし明確な社会的責任を果たすNPOが先進社会の行き詰まりを救う。米国では百万団体で一億人が週四時間働く。日本で七千、香川で四十六団体。金じゃないぞ人生は。