高松が好き(2003/06/28初出)

 高松が好きです|と言うと大方、どうして高松が好きなのですか? と尋ねられる。いつもちょっと鼻白みながら、どうして子供が母親を愛するのに理由が必要なのか、と問い返すことにしている▲日本中で「まちづくり」が話題にならない日はない。自分の住む街や町をより住みよい、楽しい明るい町にと考えるのはごく普通の感情だ。より美しく、より儲かる街ならますます歓迎だろう▲主役は市民|なんてタイトルの「まちづくり本」が本屋にあふれるように並び始めて二十年近くになる。市民主体のまちづくりは今や日本の常識だが、本当をいえば、そんな活動に参加しない市民の方が圧倒的に多い▲理由は色々ある。「税金払ってるんだから役所がちゃんとやれ」とか、「私ゃ、そんなにヒマじゃない」とか。そんな人たちを説得する時の決まり文句が「自分のまちが好きでしょ。好きなら、みんなで力を合わせて…」▲ところが普通の市民の多くにとって、たとえば「高松」はたまたま生まれた土地、たまたま引っ越してきた土地というだけだから、特段に愛する気持ちにはなれないという。実はここにこそ現代日本の最大の悩みがある▲人はだれでも、たまたま高松に生まれるように、たまたま一人の母親の子供として生まれる。合理性や必然性などかけらもないが、子供たちは何の疑問もなく、母親を愛し、母親もわだかまりなく子供たちを抱きしめる▲故郷も同じ。たまたまだろうが、何だろうが生まれた町を愛するのに理由はいらない。豊さとか個性とか、そんなものなくていい。何にもいいところがなくても高松が好き。愛を偏差値で計るから悩みが増える。