讃岐ラップ(1999/06/26初出)

 長く高松の盆踊り歌として親しまれてきた「一合まいた」が高松まつりから消えることになった。代わって登場するのはダンスビートの電子音楽|と聞いてさみしさを覚える人もいるようだ。でも大丈夫▲高松まつり運営委員会が総踊りの音楽変更と振り付け自由化を決めたのは、阿波踊りや高知のよさこいに比べ、盛り上がりに欠けるとの指摘にこたえてのことだ。確かに近年の総踊りは、もうひとつ盛り上がらなかった▲参加する連の数も過去三十年で七分の一に減った。その理由の一つとされたのが「一合まいた」の曲調だ。衰微の原因かどうかは別にしても、なるほど阿波踊りやよさこいの「切れのよさ」に及ばなかったのは事実だろう▲そこで若者好みのロック界から作曲者を選び、シンセサイザーを多用した新曲を用意した。感想はともかく、時代に合わせて歌や踊りが変わるのは当然のことだろう。ただし、せっかくの新曲が「曲名なし」では腰が砕ける▲消える「一合まいた」を惜しむ声もあるが、こちらは大丈夫。偶然のことだが、香川県芸術祭が昨年から各地に残る芸能をできる限り原形で記録保存する「伝統芸能ブラッシュアップ」事業を始め、その第一回に「一合まいた」を取り上げている▲飯山町の下法軍寺で今も歌われ、踊られている古典的「一合まいた」を昨年、デジタル技術で記録し、CDとビデオを製作した。CDは近く公共図書館などに寄贈され、ビデオは今秋の香川芸術フェスティバルで公開される▲半世紀もの開きのある新旧二つの盆踊り歌を聞き比べたが、「一合まいた」が数え歌だったことに一番驚いた。アドリブ自由の即興的構成は河内音頭にも似ているし、世界で大流行中のラップ音楽にも似ている。さぬきの古典ラップを現代化する若者はどこかにいないだろうか。