おじさんたちの胸を熱くした少女たちはもうみんなお母さんになっただろうか。あの感動をどんな言葉で子供達に伝えたのだろうか、伝えなかったのだろうか。

 

日本大好き(2002/06/15初出)

 少女たちが「日本 大好き」という横断幕を掲げるのを見て胸が熱くなってしまった。もしかすると千人針時代の少女を連想する人がいるかもしれないが、野暮なことは言うまい▲最初に夢を見たのはだれだろう。きっとずいぶん昔のことに違いない。二〇〇二年の日本のスタジアムで世界最高のW杯サッカーが開かれ、日本が決勝トーナメントに勝ち進む。それが実現した▲最初にその夢を口にした人は笑われたかもしれない。日本にも球を蹴る遊びの伝統はあったが、優雅な蹴毬と欧州の戦場で生まれた荒くれ男のサッカーは全然違う。それに日本は野球の国だった▲仲間だって少なかったに違いない。チームのメンバーが足りない時は野球部や陸上部から借りてきた。ルールは簡単。とにかく手を使わずにボールをゴールに入れるだけ。なあ頼む|と拝み倒して試合に出たに違いない▲そんな時代にもいつかW杯に出る夢はあった。日本にサッカーを広める|という夢とともにそれは語り継がれ、一人また一人と夢の輪を広げてきた。W杯出場の夢はやっと四年前に実現したが、結果は散々なものだった▲それでも夢は生き続けた。昨日フィールドにいた二十三人の代表選手を含め、数え切れないほど多くの若者が夢に向かってボールを蹴り続けた。フィールドの外でも多くの若者が奇跡のゴールを夢見て声援を送り続けた▲夢が実現した時、少女は「日本 大好き」を掲げて泣いた。夢なんかない|って投げ出したこの国で、そんな自分の目の前で、夢が本物になる。そのドラマを体験した。大人だってみんな本当は言いたかった。「日本大好き」。