日本は今も砂漠に水を撒き続けている。これからも。永遠に続くことを願う。

 

報復する人々(2003/06/12初出)

 どんなに悲しくても、悲しみをだれかに償わせたいという思いを捨てない限り、人々は永遠に報復の連鎖から逃れられない。ブッシュ米大統領のパレスチナ和平が早くも崩れそうだ▲紅海に面する保養地アカバで米国とイスラエル、パレスチナの三首脳が歴史的握手を交わしたのは一週間前のことだ。その四日後に起きたテロに対し、六日目に報復のロケットが打ち込まれ、昨日また自爆テロが起きた▲パレスチナのテロ攻撃に対し、力による制圧を方針として掲げてきたタカ派のシャロン首相が再び報復を実行すれば、米国によるパレスチナ和平は再び失敗の憂き目に遭う。和平を望まない勢力は大いに喜ぶことだろう▲過去半世紀以上にわたり、イスラエルとパレスチナは報復合戦を繰り広げてきた。遠く離れた日本から見れば愚かしいばかりだが、日本だって徳川幕府が成立するまで百数十年にわたって戦乱を繰り広げた歴史がある▲報復の連鎖を断ち切る方法は一つ。すべての報復を禁じるしかない。圧倒的な力を持つだれかが禁じるか、それとも憎み合う双方が道徳によって自らの暴力を禁じるのか。パレスチナ和平にはどちらの道もまだ見えない▲ユダヤの人々はイスラエルを「ユダヤの神が約束した土地」と呼び、パレスチナ人もアラーの神によってその地に導かれた。二つの神による争いを仲介するのは同じルーツの神をいただくキリスト教徒のブッシュ大統領だ▲しかし対テロ戦争を「無限の正義」と呼び、イラクを先制攻撃した大統領に報復を止める言葉があるはずはない。国連がいかに無力でも、日本は砂漠に水をまき続けるしかない。