ありのままを受け入れる(1998/06/02初出)
大盛況だった。しかし素直に喜んでいいのかどうか、ちょっと複雑な気分。本紙でも好評連載中の教育ルポ「もうひとつの道」の執筆者横川和夫さんを招いた講演会が開かれた。四百人が詰めかけた▲綾上町農村環境改善センターを埋めた聴衆の数に、主催の「えんどうまめの会」も町教委も横川さんもただただ驚いた。問い合わせの多さから予測はしていたが、最初は二、三十人くらいの小さな集まりのつもりだった▲今回のルポは話題のシュタイナー教育から始まった。ドイツ発祥のその学校では先生と生徒がしっかり向き合う教育を実現している。その能力や興味に合わせ、先生が一人一人のために教科書を手作りするような学校だ▲つまり文部省の学習指導要領から離れられない日本の公教育では、永遠に実現しない夢のような学校|その話をぜひ聞きたいと県内一円から人が集まった。その反響に横川さんも主催者も驚いた▲それだけを期待した聴衆がいたら、横川さんの話は二重のショックだったろう。共同通信記者時代から取材してきた少年犯罪から昨年の神戸連続児童殺傷事件まで。一連の事件の残虐さを横川さんは冷静に分析、報告した▲虫、小動物、猫、そして人間。少年たちが殺人者になる過程とその共通点を克明に検証し、追い詰められる子供たちの現状を浮き彫りにした。成績上位者五%だけに焦点を当てる教育の欠陥。しかし「問題は学校だけではありません」とも言った▲シュタイナーへの関心は日増しに高い。香川でも関連の講演会や学習会は超満員。しかし横川さんは、シュタイナーこそ子供を救う|とは言わなかった。横川さんが示した「もうひとつの道」は実に簡単で最も困難な道だった。「あなたの子供のありのままを受け入れてあげて下さい」。できますか。