今再び、コロナ禍で注目を集める看護士という仕事。20年以上前には看護婦さんと呼ばれ、今はエッセンシャルワーカーと呼ばれる。よほどの覚悟なしにはやり通せない仕事。ただただ頭がさがる。
 

あなたの言葉が胸に痛くて(1997/05/31初出)

 高松南高看護科生の歌集が届いた。「会うたびに『息がえらい』と訴えるおろおろしつつそばにいるだけ」(和泉佐代子)。国立療養所高松病院での臨床実習から生まれた三十一文字▲苦しむ患者を目前に看護生の心は揺れる。「側にいるただそれだけが私からあなたに向けたメッセージです」(細谷真帆)。戸惑い、疲れ、無力感。三十七人のそんな思いを今月十二日の看護の日にちなんでまとめた▲「寝不足の疲れた顔に『がんばれ』と患者さんからエールをもらう」(森ちさと)。患者を支えるのは看護婦だが、看護婦を支えるのは患者なのだ。その一番の喜びは笑顔。その笑顔に励まされた十五日間だった▲「ふと見せるあなたの笑顔に救われる落ち込んだときの栄養剤」(秋山央枝)、「おおつぶのくやし涙を浮かべても迎えてくれる患者の笑顔」(楠原絵美子)、「今までになかった笑顔見つけたよひなたぼっこで目もとがゆるむ」(小村実季子)▲病と闘う姿も彼女たちを勇気づけた。「病む人の強さが自分にもあるのかしらとふと思いけり」(香西里美)、「痛むたび歯を食いしばるこの方に教えられけり真の強さを」(近藤律子)。机の上では学べないことばかりだ▲「少ししか聞けないあなたの声だから言葉の重みに胸熱くなる」(岡淳子)、「寝たきりの低い視線がさびしくて立てるあなたの力を思う」(高木智子)。その優しさが強さに変わってはじめて一人前の看護婦になる▲彼女たちの道は厳しい。その労働環境は3Kとも6Kともいわれ、最新調査でも八割近くが慢性的疲労を訴え、定年まで働く自信がない|と答えた。「最終日『明日も来るん?』とあなたから言われた言葉胸が痛くて」(馬場桜)。この心にこたえる環境がほしい。