酒鬼薔薇聖斗の事件は今も関係者の間で語り継がれている。もう忘れたい人もいるが、忘れると忘れた頃にまた禍々しい事件が起きる。

 

禍々しい時代(1997/05/29初出)

 「私を止めることができるか」と犯人はメモを残した。神戸で起きた男児惨殺事件は、平成の日本が一体どこに向かって進んでいるのか不安にさせる事件だ。止めねばならない▲その事件の知らせに耳をふさいだ人は少なくないだろう。テレビのワイドショーでは、レポーターが例の押し殺した声で犯行の異常さを際立たせ、推理をかき立て、憎むべき犯人像を探ってみせた▲事件現場の近くでは三月にも小学生の女児二人が相次いで襲われ一人が死亡した。警察が事件を捜査していたそのすぐ近くで、犯人は子供の首を路上にさらし、思わせぶりな赤文字のメモを残した。同一犯の可能性もあるという▲ここしばらく子供や女性をねらった事件が相次いでいる。東京ではすれ違いざまに女性の髪をつかんで引き倒したり、石を投げ付ける事件が続発した。逮捕された犯人の一人は、「むしゃくしゃしていた」と動機を話した▲大阪でも四月に登校中の小学生の女児が近くに住む男に襲われて殺された。三月の神戸の事件の直後であり、八年前の連続幼女誘拐殺人事件の宮崎被告に死刑が言い渡された直後でもあっただけに、その衝撃は大きかった▲しかし今回の事件の衝撃はさらに大きい。こうした陰湿、異様な事件が増え始めたのは一体いつのころからだろう。現代では無言電話の被害が日常的な話題になり、女性を付け回すストーカーが流行語にさえなっている▲犯罪が常に社会を反映してきたことを考えれば、識者の指摘するように、社会そのものが病んでいるのだろうか。なぜこんな禍々しい時代になったのか。私たちは何かとんでもない間違いを犯したのだろうか。