本当に日本は生まれ変わるんだ、と予感させる稀有の政治家だった。しかし政争に足をすくわれた。本当に残念でならない。大衆が必ず優れたリーダーを選ぶわけではないことは最近の宰相の系譜を見れば説明の必要もない。地球のことなどどうでもいい我利我利亡者ばかりが世間を賑わわせている。残念無念。

 

蘇る大平正芳(2003/05/26初出)

 四半世紀の時を経て、故大平正芳首相の「田園都市国家構想」に再び光を当てる動きがあるという。それは香川が生んだ宰相が命をささげて作り上げた革命的な日本改造計画だった▲二十四日付の本紙特約コラムで政治評論家の森田実さんは、「蘇る大平理念」と題して元首相の先駆的政策を再評価している。確かに大平構想の前では小泉首相の「構造改革」はかすんでしまう▲大平さんは首相に就任すると同時に日本の第一線で活躍する学者を三百人も集めて壮大な研究を始めた。九つの研究会は「地方分散社会の形成」など、戦後の高度成長経済社会とは一線を画する大テーマを掲げていた▲「地方分権」ではなく、「地方分散」とはずいぶん遠回しな言い方だが、日米安保同盟と中央集権が生み出す繁栄をひたすら楽しんでいた当時の日本では、中央の権力を「分権する」発想などはタブーだったのだという▲NIRA(総合研究開発機構)などを中心に発表された数百の論文には経済、社会、文化のすべてにおいて日本を根本から改革する必然性とその方法、そして二十一世紀の日本が目指すべき新しい道すじが描かれていた▲これこそ日本で最初に書かれた「聖域なき構造改革」の設計図だった。しかし残念ながら豊かさに酔いしれる国民には大平さんが何を目指しているのかが分からなかった。もし実現していたらバブルも避けられただろう▲大平さんは五十年先が見える政治家だった。森田さんは小泉首相の「構造改革」に日本を革新するビジョンが欠けていることを見抜いている。穏やかさの中に革新を秘めた本物の知性は登場するだろうか。