囚人のジレンマ(1997/05/19初出)

 双方が協力すれば明らかな利益があるのに互いが信用できず、最悪の事態だけは避ようと、結局双方ともに利益を失う行動に出る|これを経済学用語で「囚人のジレンマ」という▲今年一月に就職協定を廃止した大学生の就職問題もジレンマの世界。本社が調べた県内主要企業の動向によると、半数以上が会社説明会の開催を一週間から一カ月ほど早めていた。就職戦線は青田買い時代に逆戻りしそうだ▲これまでの協定では説明会解禁日は七月一日。解禁が早すぎてはおちおち勉強していられないから、卒論にも目途がつき、生活も安定する夏休み入りに合わせた。おおむね妥当な話だったが現実には協定破りが横行した▲企業側はその日を「踏み絵」の日と呼んだ。つまりそれまでに抜け駆けの会社訪問や社員が後輩を勧誘するリクルーター制度で「内内定」を出し、各社同時に会社説明会を開けば、複数内定の学生がどの社を選ぶのか分かるという仕組み▲ただの紳士協定だから罰則はなし。有名無実の批判が高まり廃止になったが、結果は学生を慌てさせてしまったようだ。今回の説明会の早期化も、学生の我勝ちな行動に企業の方が巻き込まれたというのが本音らしい▲囚人のジレンマとは、二人の囚人が互いに黙秘すればともに一年の服役、一方が自白して他方が黙秘した時は前者は釈放、後者は十年、双方自白ならともに五年服役という場合、信頼がなければジレンマに陥って二人とも自白するケースを指す▲そういえば二十五年前も青田買いの時代だった。いや花見前も当然だったから乾田買い。過ぎては戻り、戻っては過ぎる日本の振り子。止めるには勉強せずに卒業できる大学の見直しも必要だが、そんなことを言えば、恩師が大笑いしそうな気がする。