日本の信用を貶め続けた外交官たちに失望した。その行動は「省あって国なし」と批判されたが、その後は「局あって省なし」「私あって局なし」と批判がエスカレートし、結局は何だ、ただのミーファーストじゃないか、となった。無念残念。

 

省あって国なし(2002/05/16初出)

 その人の父は「軍を失うも国を失わず」と独りつぶやいて最後の閣議に臨み、翌八月十五日未明に割腹自殺をとげたとされている。阿南惟茂駐中国大使の発言に批判が集中している▲連日、報道される外務省の不祥事に「もはや解体しかない」との声が自民党からも出ている。まさか外務省を取りつぶしてしまう訳にはいかないが、外相の正式報告さえ信用できない状況に国民もいら立ち始めている▲北朝鮮の亡命家族を領事館が見捨てた瀋陽事件は映像とともに世界に報道され、日本政府の人権感覚が疑われる結果になった。当初は画面に現れた副領事らの人権感覚のなさ、緊張感のなさが国内外からの批判を集めた▲ところが現地の最高責任者である駐中国大使が事件の数時間前に「亡命者は追い返せ」という趣旨の指示をしていたことが明らかになって、外務省そのものが亡命者排除を指示したのではないかという疑念が広がっている▲外務省は財務省と並ぶエリート集団だという。エリートはすでにエゴの代名詞になり果てたが、日本の官僚が昔からそうだった訳ではない。軍人でさえ「温容玉の如し」と尊敬を受ける人がいた▲阿南大使の父、阿南惟幾陸軍大臣もそんな人だった。その人柄と行動は小説「一死、大罪を謝す」(角田房子著)で広く知られるが、「挙措端整」「公正無私」「温容玉の如し」という思いやりの人だったといわれている▲阿南大使はその五男として開戦の年に生まれた。四歳の時、父親は自刃。陸軍の暴走を止めるためとも、敗戦責任とも言われる。しかし今はもうだれも「省を失うも国を失わず」とは言わない。 省あって国なし。無残。