そういえばこんな事件もありました。タマちゃんはかわいそうだけど、お魚さんはかわいそうじゃないのって尋ねる幼稚園児が登場してくれれば、話はもっと進んだのだけれど。日本のテレビ局は論争が好きではない、と言うのは周知の事実だ。

 

おせっかい(2003/05/09初出)

 東京を騒がせるアザラシ・タマちゃんの目じりに刺さった釣り針とパンク少女の眉じりに下がったピアスの相対評価についてはまだ多くは語られていない。痛いのか、痛くないのか▲日本ではタマちゃんの釣り針で少しばかり議論が起きているが、今、英国では釣り針にかかった魚も「痛みを感じる」という科学者の主張が論議の的となり、すでに闘争へと発展している気配だ▲数日前の英テレビBBCに続き、米ニューヨークタイムズもこの論争を取り上げた。論議はもう何年も前からのもので、動物の権利保護団体が三百八十万という英国の釣り愛好者を非難する新聞広告を出したりしている▲口に釣り針のかかった犬が登場し、「なぜ犬にはやりたくないことを魚にするの?」という内容だが、これに対し「魚は人間など哺乳類と同じような痛みは感じない」と反論したものだから科学者まで引っ張り出された▲論争には魚の脳に関する最新研究から十七世紀の随筆家アイザック・ウォルトンの名著「釣魚大全」まで登場して、「神でさえ魚釣り以上に罪のない遊びは知らない」と応酬するありさまでとても収拾はつきそうにない▲手早くリリースすればいいとか、食用ならいい、と論争しているうちに釣り場に野球バットの覆面男が現れ、魚料理店に釘爆弾が郵送される事態である。魚の痛みに無関心な人間は魚以下の扱い▲魚に同情する人から見れば生け作りを喜ぶ日本人など野蛮の極みだが、タマちゃんの釣り針には心が痛む。本当に痛いかどうかより、痛そうに見えることに心が痛む。少女のピアスもとても痛そう。でもお節介はほどほどがいい。