ワープロで廃藩置県と打つと直ちに正しい用語が出るが、廃県置藩と打ったら何度も変換キーを押さないと思う言葉にならなかった。ずいぶん長い間、地方分権が叫ばれたが、廃県置藩が奇妙な言葉に聞こえる風土は少しも変わっていない。細川さんは陶芸家になったそうだけど、そんな余裕のない足軽たちはどうすればいいのか、やっぱ革命でしょ。

 

 廃県置藩の旗(1998/05/01初出)

 きょうはメーデー。不況の長期化を反映し、今年は闘うメーデーにすると労働団体は言っている。日本中の眉間にしわが寄る時代。そんな中でさっと旗を巻いた人がいる。細川護煕元首相が議員辞職した▲発表までの段取りやタイミングから見て、計りに計ってのことらしいが真意は分からない。記者団に渡した声明文には「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花は花なれ 人も人なれ」と細川ガラシャの和歌が添えられた▲こんな時に四百年前の悲劇のヒロイン、しかも自分の先祖の歌を引くところに細川さんの出自とセンスの特異さが際立つ。ちなみに母方は藤原鎌足につながる五摂家の近衛家、父方は戦国大名。悲運の宰相近衛文麿は祖父▲旧熊本藩十八代目のお殿様と言えばそれまでだが、政界混迷を見て、日本新党を旗揚げして政治の表舞台に登場し、またたくまに連立政権を誕生させた政治感覚は並ではなかった。豹変ぶりもその持ち味といわれた▲一カ月ほど前に初めて間近で話を聞いた。もちろん辞職のそぶりもなかったが、実に不思議な印象の人だった。立ち居振る舞いは立派だし、威張らないし、言葉も明瞭。しかしどうにもつかみどころのない印象の人だった▲ちょうど新「民主党」誕生の直前だったが、思わせぶりな裏話は少しも出ず、飛び交う質問にもたじろぐことなく、「政権交代可能なシステムを作るのが私の役回り」と言い続けたが、そこにいるのに姿の見えない、奇妙な不確かさが印象的だった▲細川さんは日本に新党ブームを起こし、不動と見えた自民党支配を一度は終わらせた。その政治的嗅覚が「散りぬべき時は今ぞ」と教えたのだろうか。六十歳の節目、「民主党」の船出。闘いの秋を前にどの理由も腑に落ちない。「廃県置藩」の旗はもう巻かれてしまうのだろうか。