四国独立をモチーフにしたユーモア小説の嚆矢は1948年に毎日新聞で連載された獅子文六の「てんやわんや」がある。それに比べると南海道独立戦争というテーマはより現実的、というのも変だけど、まあ実現の予感のあるテーマだった。四国独立は明治維新の混乱の中で何度も語られた二菜国(ふたなこく)の夢の続きだ。二菜とは双生の若葉のことで、四国全体の形が双葉に似ていることから名付けられた。香川は維新の騒乱の中で愛媛に併合されたり徳島に組み入れられたり、二転三転、オモチャにされたが、高松出身の中野武営(たけなか)の大活躍で日本最小、最後の独立県となった。その騒動の軌跡を振り返ると四国州の成立などに意味があるとは思えないが、アンチ中央集権物語としてなら面白い。中野は東京株式取引所肝入(理事長)や東京商業会議所会頭を務めて東京市会議長になった経済界の大物。渋沢栄一の盟友で親友で無私無欲の人、中野の葬儀では葬儀委員長の渋沢が慟哭のあまり弔辞が読み上げられず、数千人の参列者を驚かせたエピソードが知られている。中野の死後、大正デモクラシーは実態を失い、軍国化が急進した。もし南海道が独立していたら初代大統領は中野武営以外には考えられなかっただろう。

 

小説南海道独立戦争(2001/04/20初出)

 「南海道独立戦争」という近未来小説を書こうと言い出したのは友人の編集者T尾だった。四国経済産業局が先週、四国連合(仮想四国州)の創設を提言した。南海道の夢が再びよみがえる▲経産局の提言は「四国地域における『連携』による地域活性化に関する調査研究」を土台に四県が連携するプロジェクトの調整役として、県域を越えた地域システムを構想している。それにしてもタイトルが長すぎる▲最近、盛んになってきた道州制論議も視野に四国を一つのまとまりとして活性化し、四国連合からさらに四国州への可能性もにおわせる。ただし当面の提言はベンチャービジネスやNPO育成どまりで革命のにおいはない▲欧州連合(EU)の四国版でもいいが、この種の話は一般受けがしない。たとえば県というわく組みを変えて何が変わるのか、やっぱり日本じゃないか、という。実際、四県知事の反応もまとまりのないものだった▲改良、修正より最初から「革命」の方が分かりやすい|という話から南海道独立を小説にする構想が生まれた。実際の戦争は大変だから、「このままじゃ日本は破滅、四国は独立の気概を」という警世の書にしようと盛り上がったのはもう三年前のことだ▲時は西暦二〇一三年。団塊世代が六十五歳という年金世代になって騒乱が始まる。借金付け回し財政のツケは年金遅配となり、各地に年老いた革命戦士が現れる。革命ののろしを上げるのは七〇年安保を闘った老人たちだが、追われ追われて四国に集結する▲全員六十五歳以上という老戦士たちは意外にタフで火炎びんづくりに青春の思いを重ねて笑顔を浮かべたりする。本四橋乗っ取りなど波乱万丈のエピソードの果てに独立を勝ち取るという粗筋。南海道とは四国の道。四国州よりはずいぶん語感がいい。書かれない小説。目覚めない四国。