日本語の妙ちきりん化は何も今に始まったことじゃない。このコラムの頃にはまだヤバイが一般語化はしていなかった。ヤバイの出里は、元は牢屋を意味する「厄場」から派生した泥棒用語だったというから、まさにヤバイ言葉だが、それが今では「素敵」に近い使われ方をする。「マジ」とともにここ数十年で最大の出世語だ。言葉の変化はその属する文化のダイナミズムを表し、その最大の推進者はいつも少女だという。マジ、小娘には敵わねえ。ヤバイよ。

 

チョー尊敬(1997/04/18初出)

 チョー妙な日本語が氾濫しているが、妙な日本語を妙に思わない人の方が多くなったら、一体どっちが妙なのか。日本人の三分の二は「休まさせていただきます」が気にならない、と文化庁が気にしている▲同庁がまとめた国語世論調査によると敬語、謙譲語の乱れはますますひどい。冒頭の例で「さ」が入るのは日本語の用法としては間違い。しかし大方の人は違和感を感じてない。文化庁はこれに「危機感を募らせ」ている▲会社への来訪者に「受付でお聞きになってください」と言うべきところを、「お聞きしてください」「伺ってください」「お伺いしてください」と妙な言い方をされても、半数前後の人は「気にならない」と答えている▲まったく困ったものだ、と嘆息してみせて、正しい側の仲間入りをしたいところだが、実は本欄もよく間違える。言葉が仕事なのに困ったものだが、十五日付でも「疾風勁草」としたつもりが「勁」が「頸」になっていた▲「勁」は力、「頸」は首。頸草では本当に首をひねりそうだが、「剄(首をはねる)」にならなかったのがせめてもの慰め。正しくは「疾風知勁草」(強風に強い草を知る)。善通寺市の三原さんが知らせてくれた。感謝▲誤字、誤用が気にならないのは、正しいことを知らないか、知らなくても困らないからだ。現代日本では正しさは数で決まるから、文化庁が「日本語が危ない」と心配するのも無理はない。しかし言葉は生き物、世を映すもの▲昔の人が敬語を苦にしないのは、敬語を使う場面が多かったからだろう。言葉は使えば上達する。だとすれば敬語の乱れは尊敬できる人の少なさが原因かもしれない。そうか文化庁はそれを心配してるのか。それなら早く国会に出向いた方がいい。